三鷹駅南口 (武蔵野市、吉祥寺)、とある税理士事務所職員の日常 読書
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「忘られのリメメント」

2019年02月18日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

三雲岳斗の「忘られのリメメント」を読みました。

以前に光文社文庫で「少女ノイズ」という作品を
読んだきりでそれ以外はまだ読んでいませんが、
「少女ノイズ」は抜群に面白い作品だったので
これもかなりの期待を持って購入しました。

公式の粗筋は、以下の通り。

擬憶素子、通称「MEM(メム)」を額に張るだけで、他者の記憶を擬憶体験(リメメント)できるようになった近未来。MEMに記憶を書きこむ"憶え手"である歌手の宵野深菜(しょうのみな)は、リギウス社CEOの迫間影巌(はざまかげよし)から脱法MEMの調査を依頼された。そのMEMには、死亡したとされる稀代の殺人鬼・朝来野唯(あさくのゆい)の模倣犯による犯行の模様が記録されているらしい。かつて朝来野と同じ研究施設で暮らし、朝来野の記憶を移植された深菜は、自らの擬憶に対する朝来野の影響を否定するため、捜査を開始する。だが同時期に深菜の同居人・三崎真白(みさきましろ)が殺されてしまう事件が発生。殺害現場に残されたメッセージを読んだ深菜は、朝来野の死そのものに疑問を抱きはじめる――記憶と擬憶をめぐる、静謐なるSFサスペンス。


他者の記憶をそのまま疑似体験する、
あるいは他者の記憶を自身に移植する。

しかしながら、その中に大量殺人鬼の記憶が
というような物語の流れは、今更珍しくはなくて、
むしろかなりベタなものだと言えそうです。

その基本的なベタさをどのように料理するのか、
どこにどのような自分なりの色を出してきて、
この作品ならではの要素を入れてくるのか、
そこが本作の読みどころだと言えるでしょう。

なお、粗筋に「静謐な」と書かれているそのままに、
本作には派手なアクションや展開はありません。

厳密には、映像化したときにヤマ場になりそうな
派手目のシーンはあるにはあるのですけれども、
その描写はあくまでも「静謐」なものなのです。

賛否はあるでしょうけど、こういうのは好きです。



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「未来職安」

2019年02月05日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

「横浜駅SF」「重力アルケミック」の柞刈湯葉の
4作目にして初の連載作品だった「未来職安」は、
生産活動のほとんどが機械や人工知能に
代行されている未来社会を舞台にした作品。

公式の粗筋をちょっと引用してみましょう。

99%の“消費者”と1%の“生産者”。平成よりちょっと先の世界。完全自動運転、ネコッポイド、警察ロボ、配達渡し鳥…いろんなことがオートの近未来、国民には厚生福祉省から生活基本金が支給されている。労働の必要はないけれど、職安の需要は、まだまだ健在。ヤクザみたいな風貌の職安経営者・大塚さん、女性事務員・目黒のもとに、仕事を求めて今日も妙なお客さんが現れる―。常識をくつがえす近未来お仕事小説。


もしかしたら今までの彼の作品の中では
一番飄々とした読み心地かもしれない本作。

しかしながら、今回もジャンルはSFですし、
柞刈湯葉という作家のアイデンティティーは、
やはりSF小説というところにあるのでしょう。

クライマックスらしいクライマックスもなく、
最後まで事件らしい事件も起きず、
ずっと同じテンションで続く260ページあまりは、
メリハリのない作品だということも可能であり、
そこが気に入らないという人も出てきそうです。

ですが、これはこの、のんべんだらりとした感じを
楽しむ手合いの作品だと言うべきであり、
そこに文句を言うのは詮無いことでありましょう。

この「未来職安」で描かれている世界観は
未来社会の設定としては少しばかり面白い
感じになっているなと感じられましたので、
私は、そういうところを楽しんで読んでいました。

細かいところに突っ込みを入れようと思えば、
例えばあらゆる生産活動が自動化されたといえ、
具体的にどのようにそれが達成されたのかは
一切書かれていないので、アレはどうなった、
ソレはどうやって解決したんだ、というように、
色々と疑問も多く残ったりするところがあります。

それは人によっては大きな駄目出し要素と
なるところですが、欠点とは感じませんでした。

それが、本作の魅力の1つかもしれません。



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「ある日、爆弾が落ちてきて」

2019年01月24日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前からちょっとした興味を抱いてはいたものの
何しろ2005年に発売されたという古い作品なので
店頭には既に無いから買うことができなかった本。

そんな「ある日、爆弾が落ちてきて」が書下ろしを加えて
再版されることとなったのが、一昨年の4月のことでした。

何しろずっと関心を持っていた作品なわけですから、
書店で見かけた瞬間、レジに持って行って購入したのに、
買っただけで何だか満足してしまってすぐには
読み始めることが無かったのは、私にはよくあること。

それを重い腰を上げてようやく読んでみた本作は、
書き下し新作を含め全部で8編の短編からなる短編集。

それぞれの物語相互の繋がりは特に無いけれど、
「時間」を絡めたSFというジャンルであるということ、
「フツーの男の子」と「すこしフシギな女の子」の
「ボーイ・ミーツ・ガール」を描くものでであること、
少年と少女、お互いの属する時間軸のズレが
ミソであること等が共通点としてあります。

つまり、連作短編集ということです。

作品としてのレベルはそれぞれですが、
「これは駄目だな」というのは無い一方で、
「おっ、これは良いんじゃないか」というのは
複数ありましたから、結構クオリティーの高い
満足度のある1冊なのではないかと思います。

なる程これならば、あちこちで評判が良かったり、
表題作が「世にも奇妙な物語」で実写ドラマに
なったというのも、大いにアリだなと理解できます。

時間SFと、初々しさもあるボーイ・ミーツ・ガールは
非常に相性のいい要素だと思いますし、
SF好き、特にこういうものに手を出す層は、
私も含め、案外とロマンティストが多いですからね。



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「熱帯」

2019年01月11日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

今月16日に結果が発表される予定の
第160回直木賞の候補作にエントリーされた
作品である森見登美彦の「熱帯」を読みました。

腰巻の帯に書かれていた粗筋は、次の通り。

沈黙読書会で見かけた『熱帯』は、なんとも奇妙な本だった!謎の解明に勤しむ「学団」に、神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと、「部屋の中の部屋」……。東京の片隅で始まった冒険は京都を駆け抜け、満州の夜を潜り、数多の語り手の魂を乗り継いで、いざ謎の源流へ―!


森見登美彦が一時期、深刻なスランプに
陥っていたというのは有名な話です。

本作も、全5章のうち3章までを書き上げて後
執筆作業が暗礁に乗り上げたことで知られ、
実際、こうして書き上げられたものを読んでみると、
第3章までと第4章以降で作品の雰囲気が
大きく変化しているということに気が付きます。

物語的にも大きな転換点となる箇所ですし、
その前後で作品のノリが変わるのは
内容からも大いにあることなのですけれど、
この辺り、邪推しようと思えばいくらでも
妄想が湧き上がってくる感じです。

作品としてはちょっと怪談めいたところもあり、
一方でユーモア小説的なところもあって、
作者である森見登美彦が認めているように
怪作であると言っていいのではないでしょうか。

これでもかと入れ子構造を使ってきているのは
「千一夜物語」へのオマージュでもあるからで、
読み手の側がこういうのに慣れていないと、
何が何やらわけがよく分からないということに
なってしまうかもしれないとも思います。

森見登美彦も、そこで「今の語り手が誰なのか」
ということが明確化される書き方はしていませんし、
意図的に読者を迷宮に引き込もうとしています。

本作の完成度が高いかどうかはともかくとして、
意欲作・労作であることは疑いのないところです。

直木賞を獲れるかどうかは分かりませんが、
作者が苦労して書いたのだろうという痕跡も含め、
とても面白く読ませてもらたったという感じです。



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「怪奇探偵リジー&クリスタル」

2018年12月29日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

山本弘の「怪奇探偵リジー&クリスタル」は
第二次大戦直前のロサンゼルスを舞台にした、
パルプマガジンテイストの探偵小説です。

主人公である女性私立探偵のリジー・コルトと
助手のクリスタル・ナイトの2人のキャラクター設定も
なかなか個性的で、パルプSFや怪奇映画や
初期の特撮映画、古典SFの大家達への
愛やリスペクトがふんだんに盛り込まれています。

つまり、山本弘の趣味の世界をてんこ盛りにした、
いわゆる「おもちゃ箱をひっくり返した様な」作品です。

B級の匂いがプンプンとしてきますよね。

実際読んでみると、もう、これは作者自身が
かなり楽しんで書いたんだろうなというのが
作品のいたるところ、端々から滲み出てきていて
そういう意味では、微笑ましくさえありました。

それでも単なる内輪ウケや薀蓄披露に終わらず、
しっかりとしたエンターテインメント作品として
仕上げているのは、さすがというところでしょう。

収録されている全5エピソードのそれぞれで
B級の雰囲気をみごとに描き出しつつ、
娯楽作品として面白く、時に切なさも潜ませて、
これは、かなりの傑作ではないでしょうか。

山本弘は、こういうのも上手いですね。



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「キャロリング」

2018年12月16日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

今年ももうすぐクリスマスを迎えるからということで
積読の山の中から有川浩の「キャロリング」を
引っ張り出してきて一気に読了いたしました。

書名から一目瞭然ですが、本作は世の中によくある
「クリスマスに奇跡が起きる」的な物語だと言えます。

そういう、実にありふれているありきたりなネタを
どのように料理するかは作家の実力や好み次第で、
それが作品の完成度や面白さを左右するわけですが、
ベタベタで甘い恋愛だったり人情を描かせたら
一級の職人芸を見せる有川浩なのでそこはなかなかの
ちょっとじんわり来るようなものに仕上げてきています。

粗筋は、こんな感じ。

クリスマスに倒産が決まった子供服メーカーの社員・大和俊介。同僚で元恋人の柊子に秘かな思いを残していた。そんな二人を頼ってきたのは、会社に併設された学童に通う小学生の航平。両親の離婚を止めたいという航平の願いを叶えるため、彼らは別居中の航平の父親を訪ねることに――。逆境でもたらされる、ささやかな奇跡の連鎖を描く感動の物語。


これで気になところがあるとしたらそれは、
あまりにも「いつもの有川浩」すぎるから
意外性が一切ないというところでしょうか。

それは同時に、有川浩の著作であるというだけで
ある程度のクオリティーが保証されるとも言えます。

つまり購入を検討して大丈夫と意味してもいますが、
どの作品のどの部分を切り取っても基本は同じ、
読み心地がほとんど変わらないというのは、
果たして、いいことなのか悪いことなのか……

個人的には、正直、微妙なところもあるよなと
思わないでもないというのが正直なところです。

といって、まるで違うような作品を提示されたら
それはそれで、何だか裏切られたような気分に
なるかもしれないとも思ってしまうんですよね。


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「あとは野となれ大和撫子」

2018年12月04日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

宮内悠介の「あとは野となれ大和撫子」を読みました。

以前に読んだ「盤上の夜」は結構渋めの内容のSFで、
しかし娯楽要素もあって非常に面白い作品でした。

それだけに、こちらにも大きな期待がかかります。

本作については、ご都合主義的な展開だとか、
無理が過ぎるとか、そういう批判をしばしば目にします。

が、主人公たちの暮らすアラルスタンが隣国のエゴに
無残に蹂躙されたり、革命勢力が跋扈することで
主人公たちが酷い目にあったり、無残な死、無慈悲な死が
大量に発生したりという展開は、例えそれこそが
リアルな姿なのだとしても、それを娯楽小説である
本作に求めようとは、私としては全く思いません。

無論、人の好みはそれぞれなので、
自分としてはそういうものをこそ読みたいのだ、
という人もいることを否定はしませんけれど。

本作はそういうハードなタイプの小説ではなくて、
もっと気楽に、余計なことを深く考えず、
頭を空っぽにして、後宮で学ぶ少女達の活躍を
素直に楽しむタイプの作品だと思います。

カリカチュアライズしながらも中央アジアの政治的状況を
何気にシリアスに盛り込んだりしているので、
地に足がついている感もあって楽しませてもらいました。

これは、宮内悠介の書いた他の作品も、
もっと色々と読んでみなければならないかな?



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「ぬばたまおろち、しらたまおろち」

2018年11月21日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

第2回創元ファンタジイ新人賞の優秀賞受賞作が
白鷺あおい の「ぬばたまおろち、しらたまおろち」で、
筑波大学の出身だという著者はこの作品の前に
別の名義で2冊の歌集を出している歌人らしいです。

1967年の生まれだそうなので2016年に本作で
受賞した時の年齢は49歳ということになりますね。

作家デビューとしては遅めかもしれないのですが、
他にもこんな例は幾つか思い浮かびますし、
これくらいはそこまで珍しく無いかなという気もします。

十代の多感な少女を主人公としたジュヴナイルな
ファンタジーを書く際にネックとなるかもしれませんが、
本作は、まさしくそのジャンルの小説なわけで、
そこがどのようにこなされているかを楽しむのも、
少し意地は悪いかもしれませんけれども、
読みどころの1つになるのではないでしょうか。

巻末の選評で各選考員が書いているように本作は
基本的に「どこかで読んだ」ような要素の積み重ねで
成り立っている物語であって新鮮味はありません。

それをどのようにアレンジしてみせるのかとか、
あるいはアレンジとまではいかないまでも
組み合わせを工夫してみるというところも
書き手の腕の見せ所ではあるのですが……。

自分の好きなものを詰め込むだけ詰め込んだ上で
ガール・ミーツ・ボーイなところに落とし込んだ構成や、
みえみえとはいえお約束を踏襲したオチとかは
それなりに良かったのですが、物語の展開の一部に
大いに疑問を覚えて、その違和感が最後まで
抜けきれなかったのは、結構なマイナス要素です。

そうでなければ話が回らないという事情は
確かに分からなくもないのですけれども……。

そのような問題点はありつつもそれなりに
面白く読ませてもらったのも事実ですから、
本作はシリーズ化されて第2巻も出ているので、
一応、そちらも読んでみるつもりです。



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「アトミック・ボックス」

2018年11月09日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

瀬戸内の離島で漁師をしていた父が死の間際に
残した物を巡り大学で社会学の専任講師をしている娘が
公安の追跡を振り切って広島から東京に向かうという、
池澤夏樹の「アトミック・ボックス」を読了しました。

作品のタイトルが既にその内容を示唆していますし
裏表紙の粗筋でも書かれてもいることなので
ここでも特に遠慮せずに書いてしまうことにしますが、
実は彼女の父はかつて国産の原子爆弾開発計画に
関わっていたことがあって計画が頓挫した後も
ずっと公安の監視対象になっていたのです。

その計画の一部を記録した機密資料を託された彼女が
遺されたものをどのように扱うべきか、公表すべきかを
迷っている内に父親殺人の容疑で指名手配されてしまい……
というような導入から始まる本作の物語はどうやら
「冒険小説を書きたい」ということが動機で書かれたよう。

なる程、確かにこれは冒険小説だとも言えると思いますが、
そのフレーズを聞いた瞬間に想像されているような、
血沸き肉躍る大冒険、というようなものではありません。

裏表紙の粗筋にはサスペンス小説と書かれていますが
そこまでギリギリの緊張感が続くようなものでもなくて、
そんな感じに、冒険小説ともサスペンスとも言い切れない
作品ですが、決してつまらないというわけではありません。

これは別に扱っている題材が政治的に敏感なものであること、
そして、「これはあの人の事だな」と実在の某有力政治家を
はっきりと類推することができるキャラが出てきたりすること、
といった要素から筆の勢いが鈍ったというわけではなくて
物語の基本に「家族の物語」というものを持ってきた以上は、
むしろ当然の帰結だったではないかなと思っています。

その他のマイナス要素として、ネットでの拡散について
登場人物達の認識の甘さが気になるシーンがあった、
というものもあるのですが、池澤夏樹の年齢を考えれば
この辺りは致し方ないところでもあるといえましょう。

ストーリーの本筋に絡む部分でもありませんし、
池澤夏樹ならもっと凄いものにできたのではないか
という不満はあれど、なかなか面白い作品でした。



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「ユートロニカのこちら側」

2018年10月27日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前に紹介した「ゲームの王国」が面白かったので、
こちらも読まなければならないかなと思っていた
第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞した小川哲の
デビュー作「ユートロニカのこちら側」を読みました。

タイトルにもなっている「ユートロニカ」というのは
ユートピアとエレクトロニカを合わせた造語ですが、
前者は分かるとして、何故、音楽のジャンルである
エレクトロニカを使っているのかということについては、
文庫版巻末の入江哲郎の解説を読めば分かります。

要は、エレクトロニカの持つ浮遊感や抒情性が
作品の方向性に合致しているらしいのですが、
私はエレクトロニカのCDも何枚か持っているものの
その感覚は正直今一つ分からなかったりします。

でもまぁ、こういうのは名付けた本人が納得していれば
それでいい話で特に問題は無いのではないでしょうか。

巨大情報企業が、様々な個人情報、位置情報から
視覚・聴覚、嗜好、行動等のありとあらゆる全てを
その企業に無条件で提供することで居住許可を
得ることができる実験都市アガスティアリゾートを建設。

情報提供には対価が支給されるので、それだけで
平均以上の豊かな生活を送ることができます。

ちょっと前からニュースになったりもしている
ベーシックインカムという概念とはちょっと違いますが、
飢えることも無く、プライベートを売り渡しているとはいえ、
ただ暮らしているだけで一定の収入が約束された都市。

この、ある意味では理想郷ともいえる都市が真実、
ユートピアと呼べるものなのかを突きつけているのが
6つの短編から成る本作で、ある種、ディストピア小説です。

あちらこちらでビッグデータの活用が声高に叫ばれ、
もしかしたら私達も知らないところで様々なプライベートを
切り売りさせられているかもしれない最近の社会を考えると、
本作についても、ついあらぬ深読みをしてしまいそうですが、
さすがにそれはやり過ぎで、あまり意味はないかもしれません。

SFコンテスト大賞というのが納得の、良い作品でした。



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