三鷹駅南口 (武蔵野市、吉祥寺)、とある税理士事務所職員の日常 読書

「公正的戦闘規範」

2018年04月15日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

藤井太洋の初短編集が昨年8月に発売された
「公正的戦闘規範」になるのですけれども、
ここには、これまでに早川書房で発表されてきた
4つの短編に書下ろしを加えた5作品、順に、
「コラボレーション」「常夏の夜」「公正的戦闘規範」
「第二内戦」「軌道の環」が収録されています。

技術やシステムの進化が人の世にもたらすものと
それによって変わる「人の在り方」というようなものが、
全ての作品に通底するテーマなのかと感じました。

それはこれまで読んだ彼の長編作品にも共通する
というような気がしていますから、つまるところ、
作家としての藤井太洋の基本的テーマが、
そこにあるのということなのかもしれません。

SF的には定番である一般的な題材ではありますが、
巻末の解説で大野万紀が書いているように
藤井太洋はかなりヘヴィーでディストピア的な状況が
科学技術と人の在り方の変容で前向きな未来を
迎える可能性を描くことに、その特徴があるのでしょう。

だから、洒落にならない状況が描かれていたとしても、
読後感はかなり爽やかだったりするわけです。

この5編の中で私が一番気に入っているのは表題作の
「公正的戦闘規範」でしたが、次いで「常夏の夜」が良く、
残りは同格3位ということになるかなと感じていますが、
「第二内線」の、アメリカに近い将来起こり得るかもしれない
2極分裂を描いているところは面白かったので、
強いて1つを選ぶならばそれが第3位です。

ただ、非常にハイレベルなところでの僅差の話なので、
基本、どの作品を読んでも大いに楽しめると思います。

知的刺激があって面白い、お勧めの短編集です。


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「100億人のヨリコさん」

2018年04月05日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

森見登美彦が得意としているようなヘタレ学生ものを
書いてきたのかなと思わせてくる序盤の流れから、
七不思議的な怪談を科学で解き明かそうという
ミステリーになってきたなと思わせてきた後に、
更にとんでもない方向に舵を切ってくるのが、
今回紹介する似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」です。

「サダコ。カヤコ。そして――!!……え、ヨリコさん?エンタメ史上に残る凶悪ヒロイン、大量出現!?圧倒的な熱量で奇想が暴走する、傑作パニックサスペンス!」


と、腰巻の帯には煽り文句が印刷されていますが、
個人的に、本作のジャンルはSFだと思います。

こんなことを書くと、SF原理主義者な方との
「SFの定義とは」という古来より様々な立場が表明され
結論が出ない(というか、出るわけもない)不毛な議論に
巻き込まれてしまうかもしれないのですけれども……

それでも、ここは断言させていただきましょう、
似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」は、SFです!

いつもの似鳥作品のように、地の文の冗長な語り口と
時折挿入されてくる(まるで論文のような)用語脚注という
スタイルは今回も健在で、その軽やかなノリの良さが
序盤のユーモア小説的雰囲気を生んでいます。

やがて、それが段々とバッドトリップのような酩酊感と、
背筋にゾッとくるようなテイストをも醸し出すというのが、
そのギャップで読者を引き付けるのに非常に効果的です。

これを計算してやっていても凄いと思うのですが、
本作については、どうやらそこまで緻密に
計算しつくして書かれているというよりも、
いわゆる「物語が降りてきた」状態で書いた、
ということであるらしいフシが見えます。

その結果が、これだけの面白い作品か……

ネタバレは一切したくないタイプの作品なので
これ以上具体的な言及は避けておきますけれど、
これは、かなりのお薦め作品だと言えます。

ただし、人によっては、ちょっとしたホラー小説を
読み終えたような読後感になるかもしれません。

なので、そういうのが苦手である人にとっては、
本作を読んでみるかそれとも止めておくかは、
熟慮の末に決めた方がいいかもしれませんね。



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「ゲームの王国」

2018年03月25日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

私が定期的にチェックしている書評サイトや
好きな作家からの評判も良かったので、
これは是非購入して一気読みしなければ
と、寝不足上等の覚悟でページを捲ったのが、
小川哲の 「ゲームの王国」 上下巻です。

クメール・ルージュが支配するポル・ポト政権時代で
恐怖政治の下に生きる人々を描いた上巻と、
現代カンボジアでの<ゲーム>を描く下巻。

全編を読んで分かるのは本作は最初から最後まで、
「ルール」という言葉が根底に流れているということ。

単に「ルール」と言ってもその内容には色々ありますが、
この「ルール」は、例えばスポーツの「ルール」だったり
麻雀・ポーカー等の遊戯の「ルール」というものだけでなく、
社会の「ルール」や国家の「ルール」というものも含みます。

主要な登場人物の1人であるソリヤの言葉を借りれば
「法律が機能していて、理不尽なこともない。
みんなスタート地点は同じで、
才能と努力によって誰でも勝利することができる」
「公正なルールが設定され、人々がそれを守る社会」。

その内容はともかくとして、高い理想を掲げて
それを実践しようとし、そして失敗した
ポル・ポト政権の生み出した、あまりに多くの死。

その陰惨さが育んだ2人の男女の理想と思念の
行きつく先が果たしてどうなってしまうのかは、
これから本作を読む人のお楽しみですけれども、
こう来たかと、かなり面白く読ませてもらいました。

もう少し書きこみが欲しい、もっとエピソードが欲しい、
というような部分が無かったわけではありませんが、
デビュー2作目でこれというのは、なかなか
将来が楽しみな作家だと言うことが出来そうです。

最高に楽しめました。





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「横濱エトランゼ」

2018年03月15日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前に紹介した蜂須賀敬明の「横浜大戦争」同日に
同じ書店で買いつつしばらく放置してしまっていた
大崎梢の「横濱エトランゼ」をようやく読了しました。

これ等を購入した昨年6月辺りにはもしかしたら
出版界で特に「横浜ブーム」とでも呼ぶものが起きて、
それで横浜絡みの小説が連続して出ることになった
のでもないでしょうが、柞刈湯葉 の「横浜駅SF」以降、
タイトルに「横浜」を冠した作品が立て続けに複数出た
という印象が結構強く、私の中にはあります。

本作の物語の主人公は、大学の推薦入学が決まり、
卒業を待つばかりのイラストの得意な女子高生。

彼女が卒業までの間の短期バイトをしているのが
横浜中心地区を題材にするタウン誌編集部なのですが、
そこの本来の編集長がヘルニアで療養に入った為に
今は彼女が昔から密かに想いを寄せている
7歳年上の幼馴染が臨時編集長に任命されています。

つまり、彼女にはそこでのバイトをすることを通じて
幼馴染との関係を進めたいという気持ちもあるわけで、
その辺りのもどかしさも、一応、読みどころの1つです
(そこへはあまり焦点があわないので、一応としました)。

形式としては連作短編であり、「元町ロンリネス」に始まり
「山手ラビリンス」「根岸メモリーズ」「関内キング」
「馬車道セレナーデ」の合計5編が収録されています。

それぞれ横浜の観光名所(この中で根岸に関しては
他と比べるとちょっとマイナーかもしれませんが、
根岸森林公園と競馬場跡がありますしね)を題に冠して、
地区の歴史を絡めたストーリーとなっており
なかなか楽しく読ませてもらいました。

欲を言わせてもらえばそれぞれのストーリーに
もう1つ2つくらいのインパクトというか、
パンチが効いたところが欲しかったというような
気もしないでもないのものの、これはこれでアリかと。

ただし、横濱市民でなければとまでは言わないまでも
元々横浜の歴史を少し知っているような人でない限り、
残念ながら今一つ入れない作品かもしれません。



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「魔導の矜持」

2018年03月01日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

佐藤さくら のデビュー作である「魔導の系譜」
舞台を隣国に変えて描かれた第2作の「魔導の福音」
「真理の織り手」シリーズの第3作目ということになる
「魔導の矜持」は、かなりシンプルな構造の物語。

第1作目は作者の「これが書きたい」という気持ちが
全面的に前に出て、また、デビュー作という事もあってか
文章がこなれておらず、少々読みにかった作品でした。

意欲や情熱を書き手が御しきれていなかった
と言い換えてもいいかもしれません。

それが、学園青春モノの要素が加わった2作目で
その読みにくさが薄れて娯楽作品として読みやすい、
サクッと進められるものになったと感じたのですけれど、
今回の第3作は、そんな第2作目を更に上回って
読みやすいと言えるような作品になっています。

それは、物語の紡ぎ手として作者の技術が上がった
というのもあるでしょうが、先にも書いたように、
この「魔導の矜持」のストーリーラインが非常に
シンプルなものだからというのも、大きそうです。

ざっくり言ってしまえば、第1作目で発生した内乱以後
魔導士への迫害が深刻化・悪化しているラバルタで、
村人による私塾の襲撃で師や学友を殺され
追われる身となってしまった子供達が、
何とかそれを逃れて落ち着ける地までたどり着く物語、
という表現で、まずまず、過不足はありません。

ここに、内乱で負った精神的外傷に苦しむ元騎士とか、
廃嫡されてしまった貴族の庶子等が絡んできて、
話には厚みが増されていくのですけれども、
基本は、迫害された魔導士候補の子供達の逃避行。

その一点に絞って書かれています。

異能力者が迫害されるのはSFやファンタジーに限らず
こういうタイプの物語では結構お馴染みの設定ですが、
中世ヨーロッパの魔女狩りその他の史実があるだけに、
異物(と自分達が感じ、信じる相手)を排除しようとする
人の行動が生み出す愚かしさや悲劇といったものには、
悲しくなるくらいのリアリティーがありますよね。

売れ行き次第でシリーズは続けられそうなので、
この対立軸を、これからどうしていくつもりなのか、
次なる物語の第4作の発表を待ちたいと思います。


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「ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐Ⅱ」

2018年02月17日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

全2巻の「ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐Ⅱ」は
県大会から西関東支部大会までは例年進めているものの、
そこで上位3位に入れずにいつも4位どまりで
全国大会出場を逃している須賀瀬高校の吹奏楽部で
アルトサックスを担当する1年生の典子を主人公にした作品。

色々とあった結果、吹奏楽部を退部し、
ジャズの道を歩むことを志し始めた典子。

とはいえ、まだまだジャズに関する知識も何もないので
個人レッスンを受けるなどして技術と知識を得つつ、
メンバー募集中の大学生達のジャズトリオにも参加したりして
その腕を磨き、才能を徐々に開花させていくのですが……

そこに、彼女の出生の秘密、母親と父親の過去が絡んできます。

ここをあんまり具体的に書くとネタバレになりますから
この辺りで止めにしておくこととしますが、
これがなかなかシビアでスリリングなものとなっているので、
物語はかなり派手に盛り上がりを見せることに。

読み始める前には、まさかこういう方向の話とは
思ってませんでしたけれども、いや、これはいいですね。

青春部活モノや明朗快活な音楽モノということには
なっていない作品ではあるのですけれども、
少しサスペンスの入ったミステリーとして、
なかなか面白く読ませていただきました。




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「深海大戦 Abyssal Wars」

2018年02月07日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

私の好物の1つとも言える海洋SFジャンルの
全3巻からなる藤崎慎吾の大作小説が、
「深海大戦 Abyssal Wars」になります。

深海を舞台に、海に生存場所を求めたシー・ノマッドと、
陸上にある旧来の国家群(特に先進諸国)との対立を
描いていく作品になるのかなと思わせておいて、
実は……という、ちょっと意外な展開をした本作。

作者の過去作である 早川文庫JAの「ハイドゥナン」や
文春文庫の「鯨の王」といった、同じく海洋を舞台にした
SF作品の印象に知らずに縛られていたのかもしれません。

藤崎慎吾の海洋SFで、かつ深海が題材となれば
当然こういうモノになるよねという先入観というか、
そういう、ある種の予定調和のようなものを
外してきたのは、少々新鮮だなと感じました。

本作の場合、著者の過去作品から推測できる、
という意味での予定調和が、別の意味での予定調和、
つまり、人に与えられたオーバーテクノロジーの謎とか
未知の世界の探求とか、そういうものを題材にした
一般にもウケそうなエンターテインメントなSFをやる場合の
非常にベタな方法に置き換わっているだけだ、
と言うこともできてしまうなと、思わないでもありません。

それが悪い、というわけでは、必ずしもありませんけれど。

作品の1つのキーポイントであるシー・ノマッドという設定には
ハヤカワ文庫JAから出ている上田早夕里の「華竜の宮」
続編となる「深紅の碑文」といった作品のことをどうしても
連想させられてしまったのは事実ですが……

本作はあれらとは違いディストピアものというわけでは
ありませんので、その雰囲気は随分と違っています。

帯には様々な人からの賛辞が印刷されていますが、
実際読んでみて、なかなか面白い作品でしたし、
興味を惹かれたという人は、是非、ご一読ください。



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「横浜大戦争」

2018年01月28日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

「ご当地小説」というのは、有名な観光名所から
地味な地方都市や農村なども含め色々とありますが、
そんな中の1冊、昨年6月に発売されたのが、
文芸春秋社から出た蜂須賀敬明の 「横浜大戦争」 です。

この手の作品はローカルなネタをこれでもかと
盛り込んだ地域感丸出しなモノになりがちですよね。

となると、横浜市に住み着いて間もない人では無く、
既に最低でも3年以上は継続して住んでいて
その地理だとかそれぞれの区の特性というものにつき
ある程度知っているような人でなければ
楽しめない、そういう人しかターゲットになり得ない、
そんな作品になるということも、ままあるものです。

とはいえ、横浜市は人口が370万人の大都市なので
そこだけを狙った作品を出しても、それはそれで、
一定の売上が期待できるのかもしれませんが……。

とりあえず言えるのは、まるで横浜市に興味が無い
というような人には向かない作品だということですが、
そういう人はそもそもこれを読もうとは思わないだろう、
と突っ込まれてしまえば、それまでですね。

こういうタイプの作品を書こうとする場合には、
それぞれの区の土地神を思い切りカリカチュアライズして、
例えば「青葉区ってこうだよね」「旭区ってこうだよね」
というのをギャグすれすれまで強調するというのも、
パターンとして考えられる王道なやり方です。

実際、この作品でも一部に見られなくもないのですが、
案外と、そこまでローカルにバリバリな内容には
なっていないのではないかというように思えました。

とはいえ、例えば金沢区の土地神が病院を経営する
医者だというのは、そこに横浜市立大学病院がある、
ということを知らないと何でそういう設定になったのかが
分からない可能性が高いということ等はあるのですけれど。

ただ、それが分からないからといって
楽しめないような作品にはなっていません。

逆に、どうせならばもっと多くのローカルネタ、
横浜市民でも知らいするようなディープなネタを
盛り込んでみても良かったのではないか、
というようなことも私としては感じたりしました。

ともあれ、そういうことはありますが、
基本的にはかなり面白く読めて、
なかなか楽しい本だったと思います。



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「未必のマクベス」

2018年01月18日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

昨年9月末の文庫版刊行以来ずっと
あちこちの書店でプッシュが続いている、
企業謀略小説であり犯罪小説でもある
早瀬耕の 「未必のマクベス」 を読みました。

「未必」という単語を聞いてすぐに思い浮かぶのは
「未必の故意」という言葉ではないかと思いますが、
弁護士ドットコムの用語解説ページによると
同語は「罪を犯す意志たる故意の一態様であり、
犯罪の実現自体は不確実ではあるものの、自ら企図した
犯罪が実現されるかもしれないことを認識しながら、
それを認容している場合を意味する。」と定義されます。

つまり、場合によっては自分の選択した言動が
犯罪となることを知りながら、そうなってしまっても
それはそれで構わないという考えでいることが
「未必の故意」だとすれば、「未必のマクベス」とは
どういう状況を指すことになるのでしょうか。

ちなみに、本作表紙に印刷されている英字タイトルは
「UNCONSCIOUS MACBETH」となっていて、
これを再度日本語に訳すと「無意識化のマクベス」とでも
なると思われるのですが、「自分がマクベスとなってしまう
可能性があることをはっきりと承知していながらも、
それでも構わないと考えている」ということだと思われる
「未必のマクベス」とは、温度差がありますよね。

こういうのは本作を読んだ側が自分なりに感じて
解釈すればいいことではあるのですけれども、
早瀬耕 がどう考えているか、気になります。

なお、改めて言うまでもないかもしれませんが、
本タイトルの「マクベス」とは、ウィリアム・シェイクスピアの
いわゆる四大悲劇の1つである 「マクベス」 のことで、
その詳しい内容はここでは言及しないですけれども、
「未必のマクベス」とはつまり、主人公である中井優一が
マクベス王と同じ道を歩むことになってしまう、
その過程を描く物語だと言えるわけです。

北上次郎は巻末の解説文で本作のことを、
「とても素敵な小説だ。究極の初恋小説だ。」
と評していますが、「究極」であるかどうかは
読者それぞれが判断すればいいとしても、
本作が初恋小説だ、という点については
間違いのないところだと言い切ることができます。

冒頭に私は、本作を企業謀略小説であり犯罪小説
と書きましたけれども、これは、それと同時に
上質な恋愛小説、初恋小説でもある作品です。

「未必の故意」は「未必の恋」でもあるというのは
ネット上で見かけた本作の感想に書かれていた
フレーズなのですけれども、まさしくその通りであり、
かなり刹那的なシーンや暴力的なシーンもありつつも
本作がどこか柔らかい雰囲気を漂わせているのは、
「初恋」が根底に流れているからかもしれません。

非常に面白い作品であり、時間を忘れて読み耽れて、
頁をめくる手が止まらないことを請け負えます。

およそ読者好き、物語好きな人であれば、
読まずに済ませてしまうことがもったいない、
大いなる名作、とんでもない傑作だと断言できます。


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「シンセミア」

2018年01月08日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

年をまたぎつつ一気に読み切ったのが、
阿部和重の「シンセミア」上下巻なのですが、
これは、作者自身の故郷であるという
山形県の東根市神町を舞台にした三部作
「神町トリロジー」の一作目にあたる作品です。

本作の特徴的として、ここに登場してくる人物が
全て、おかしいということが挙げられるでしょう。

例えば、私の買った版の帯に印刷されているのは
「警官は淫行にふけり、青年団は盗撮に励み、
人妻は麻薬を常用し、老人は超常現象にうつつを抜かす。
この街の人間はだれ一人まともではなく、
おのれの欲望を満たすことだけを考えている。」
という文章ですが、これは決して誇張等では無いのです。

そのような人物たちが織り成す物語は下巻に入ると
一気に全てが崩壊に向かって転がり落ちていきました。

因果応報という言葉がありますけれども、
本作に出てくる登場人物達は誰もかれもが
碌でも無い「因」の持ち主ばかりなので、
報われる「果」も碌なものではありません。

あるいは、そこにカタルシスを感じられれば
読後感も少しは爽快になろうものを、本作の場合は、
小悪党が小悪党同士でつぶし合っているというか、
どうしようもないままに自滅をしているとか、そういう、
スカッとしない終わりを迎えるパターンばかりで、
物語的なカタルシスとは言えない終わりを迎えています。

それだけに、読んでいて胸糞が悪くなりそうなのですが、
ここまでどうしようもなく救いの無いラストなわりに、
何だかすんなりと読み終えてしまいました。

それはどうしてだろうと考えてみたのですけれども、
結局、この物語には、極度に乾ききってはいるものの、
全編を通じてユーモアの空気が漂っているからだ、
ということになるのかな、という結論に達しました。

ただし、粗暴で下品なテイストの強いパルプ作品
であるということには変わりはありませんから、
これを笑えるか、かなり読者を選びそうだと思います。

私としても、面白くなかったわけではないのですが、
「神町トリロジー」の残り2作品も読もうと思うか、
と問われると、うーん、ちょっと微妙な気がしますし、
少なくとも、今すぐに手を出そうとは、思えません。





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