JR中央線 三鷹 (武蔵野市、吉祥寺)、とある所属税理士の日常 読書
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「破滅の王」

2020年06月28日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

兵器としての運用を見込んで研究・開発された
ウイルス漏洩による感染拡大という共通点もあるし、
小松左京の『復活の日』を読んだのであれば、
その次にはこれを読まなければと思ったのが、
以前から興味のあった上田早夕里の『破滅の王』。

この文庫、小さめの活字で1ページの文字数を多く、
挿絵も使わず厚くならないようにしているようですが
それでも結局500ページ超のボリュームとなっている、
つまりは渾身の力で書かれた相当の大作になります。

一九四三年、上海。「魔都」と呼ばれるほど繁栄を誇ったこの地も日本軍に占領され、かつての輝きを失っていた。上海自然科学研究所で細菌学科の研究員として働く宮本は、日本総領事館からある重要機密文書の精査を依頼される。驚くべきことにその内容は、「キング」と暗号名で呼ばれる治療法皆無の細菌兵器の論文であり、しかも前後が失われた不完全なものだった。宮本は、陸軍武官補佐官の灰塚少佐の下で治療薬の製造を任されるものの、即ちそれは、自らの手で究極の細菌兵器を完成させるということを意味していた――。


という粗筋で、ジャンルは第二次大戦の中国大陸を
舞台にした歴史謀略サスペンスになるでしょうか。

この要素からはどうしても七三一部隊のことを
連想せずにはおれないわけですけれど、
もちろん、当然のようにそれは作中に登場します。

そこに作者の政治的な思想を反映させるというより、
普遍的なヒューマニズムや、組織の中の人の在り様、
戦時下という特殊な状況下であることが起こしてしまう
感情の麻痺といったようなものの方に焦点が
合わせられている作品のように感じました。

難点を挙げると、基本的な時間軸の流れにおいて
実際に歴史に無かったようなことは書かない、
つまり架空性は極力持ち込まないという形で
書かれたらしいことの弊害として、ラストが少々
不完全燃焼、物足りなさを覚えるところでしょう。

題材が題材であり、そこまでの緊張感ある展開を
受けてのラストですから、もっとカタストロフィーが
あった方がすっきりしたのではないかと思います。

とはいえ、それはあくまで娯楽作品として考える
という前提に立つのであればということであり、
今の終わり方が駄目だというわけではありません。

そこは、誤解をされないようお願いいたします。



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「お台場アイランドベイビー」

2020年06月15日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

この作家の作品であれば文庫化されたものから
順次読んでいくことにしようと決めていたものの、
書店の棚で見つけ読み忘れに気が付いたのが、
伊与原新の『お台場アイランドベイビー』です。

今回も、公式の粗筋を引用してみましょう。

日本を壊滅寸前にした大震災から4年後、刑事くずれのアウトロー巽丑寅は、不思議な魅力を持った少年・丈太と出会う。謎に包まれた彼の出自は、近年起こっている「震災ストリートチルドレン」たちの失踪と関連しているらしい。丑寅は元上司の鴻池みどりと協力し、子供たちの行方を追う。やがて、手がかりが震災で封鎖されたお台場にあることを知った丑寅は、丈太と潜入を試みるが――驚天動地の近未来「本格」アクション!!


大災害や気候変動等でそれまでの都市構造が
崩壊した東京というシチュエーション自体は、
実際、そんなに珍しいものではありませんよね。

例えば古川日出男の「サウンドトラック」であり、
あるいは池上永一の「シャングリ・ラ」であり、
藤崎慎吾の「ストーンエイジCOP」シリーズ等が
具体的に私が挙げられる類似作品になります。

どれも、災害というより極度の温暖化進行が
原因となっているような作品ですけれど……。

ともあれ、メジャーなジャンルでやるからには、
差別化を図るための本作だけのオリジナルが
求められますがそういう観点で本作を読むと、
かなりいい感じになっているように感じられました。

ただし、粗筋に謳っているような「驚天動地の」
要素があったかどうかは、横に置いておくとして。



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「復活の日」

2020年06月05日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、
リバイバル的に売上を伸ばしているという
小松左京の『復活の日』を読みました。

吹雪のアルプス山中で遭難機が発見された。傍には引き裂かれたジェラルミン製トランクの破片。中には、感染後70時間以内に生体の70%に急性心筋梗塞を引き起こし、残りも全身マヒで死に至らしめるMM菌があった。春になり雪が解け始めると、ヨーロッパを走行中の俳優が心臓麻痺で突然死するなど、各地で奇妙な死亡事故が報告され始める――。人類滅亡の日を目前に、残された人間が選択する道とは。著者渾身のSF長編。


というのが、裏表紙に記載された本作の粗筋です。

このMM菌が実は東西冷戦の中、兵器転用を目指して
研究・開発されたモノであるというのが1つ大きなミソで、
疫病によるパンデミックを題材としていることに加え、
それもあるからこそ、新型コロナウイルス感染症が
世界的な大流行を見せる中で、多くの人の関心を
惹きつけたというのは、間違いないことですよね。

また、物語の内容、軍事機密のベールに包まれた
研究所からMM菌が解き放たれるに至った後に
人類社会が辿ることになる破滅への経緯は、
今読んでも、というか、むしろ今だからこそ
強いリアリティーを持って迫ってくるものでした。

一般人、医療関係者、研究者、軍人、政治家、
作中で描かれるそれ等の人々の言動には、
仮に新型コロナ問題の前に読んでいれば
「確かに、そういうことにもなりかねないよな」
と感じるにとどまっていたであろうことが、
「確かに、そういう行動に出ていたようだった」
と感じられてしまったというものもありました。

小松左京の先見の明と、事態を予測する能力の
確かさや正確さの凄さに唸らされると同時に、
今から約半世紀前の1964年にこういった書籍が
刊行されていたにもかかわらず、結局私達は、
ここに記された現代社会のマイナス面を
なぞってしまっただけなのではないかと、
何ともいえない気分にもなってしまいます。


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「マーダーボット・ダイアリー」

2020年05月24日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

マーサ・ウェルズの『マーダーボット・ダイアリー』は、
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞の3冠と
2年連続ヒューゴー賞の受賞を達成したというSFで、
公式の粗筋は以下のようになっています。

かつて大量殺人を犯したとされたが、その記憶を消されている人型警備ユニットの“弊機"は、自らの行動を縛る統制モジュールをハッキングして自由になった。しかし、連続ドラマの視聴を密かな趣味としつつも、人間を守るようプログラムされたとおり所有者である保険会社の業務を続けている。ある惑星資源調査隊の警備任務に派遣された弊機は、ミッションに襲いかかる様々な危険に対し、プログラムと契約に従って顧客を守ろうとするが……。


本作の特徴であり、最大の持ち味でもあり、
そして最も面白いところは、主人公である
人型警備ボットの“弊機”のキャラクター、
どこか屈折していつつも飄々としている性格や
一人称の文章で綴られるその語り口です。

下巻末尾の解説で渡邊利道も指摘していますが
本作の文中に、この世界がどのような世界であり
どういった技術があって、どのような形で統治されて
いるという世界設定は、ほぼ説明されていません

SFに緻密な設定を求めるような人がその
設定面の緩さをどのように感じるのかは、
何とも言えないところなのは否めません。

しかし、そういう設定の緩さが気にならないくらい
本作では主人公の“弊機”をはじめとする様々な
登場キャラクター達の魅力で溢れているので、
そういう意味では、極めてキャラクター小説的な
SF小説であるとも言えるような気がします。

SFというと敷居を高く感じる人もいるでしょうし、
海外の作家の翻訳ものであるということも
ハードルになってしまうかもしれないのですが、
この『マーダーボット・ダイアリー』は単純に
主人公のとぼけた魅力が非常に魅力的で
面白い作品ですので、是非、多くの人に
読んでいただきたいものだと思います。

ちょっと値段が張るのは、ネックですけれど。




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「嘘と正典」

2020年05月12日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

結構注目している作家の1人であるため
発売日に購入しながら積読にしてしまっていた
小川哲の短編集「嘘と正典」を読了しました。

公式の粗筋は、こんな感じです。

日本SF大賞&山本周五郎賞をダブル受賞した「ゲームの王国」の俊英・小川哲が仕掛けるSFとエンタメの最前線たる6篇。ナチスは時の獄に繋がれ、マルクスは消失する。そして僕は。零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」。名馬・スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる「ひとすじの光」。東フランクの王を永遠に呪縛する「時の扉」。音楽を通貨とする小さな島の伝説を探る「ムジカ・ムンダーナ」。ファッションとカルチャーが絶え果てた未来に残された「最後の不良」。CIA工作員が共産主義の消滅を企む「嘘と正典」(書き下ろし)。以上全6篇を収録


本作をジャンル的にはどのように分類すべきか、
ミステリー的なところもあり、SF的なところもあり、
幻想小説的なところもあるので迷ってしまいます。

一応、全6篇中の4篇は雑誌『SFマガジン』に
掲載されたものになりますので、第一義的には
SFと解釈すべきかもしれませんけれども、
これ等の短編は、それぞれに比率の大小はあれど
要するに複数のジャンルの要素をミックスしている
と考えるのが正しいのだろうなという気がします。

小川哲が意図的にそういう作品を目指しているのか、
それとも思いつく物語が大体そういう方向になるのか、
それは分かりませんけれども、この方向が作風だと
考えて差し支えないのかもしれませんね。

ちなみにここに収録された作品の中では特に
表題作である書下ろしの「嘘と正典」が白眉であり、
次点として「最後の不良」が続くという感じです。

明快で分かりやすい解答が与えられておらず
読者の側で考えなければいけないものもあるので
「よく分からない」と思う人もいるかもしれませんが、
読書に知的刺激を求めるのであればこれは
結構お勧めな1冊なのではないかなと思います。


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「プロジェクトぴあの」

2020年04月22日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

世の中はそんな話をしている状況ではないのでは
という声もあるだろうということは重々承知ですが、
こんな時期だからこそ「日常」を忘れないでいたい
という思いと、自宅待機で時間を持て余す人に対し
何らかのお役に立てばという思いもあるので、
敢えて、平常時と同様に、私が読んだ本の紹介を
定期的にさせていただきたいと考えております。



さて、かねてより是非読みたいと思っていた作品が
山本弘の「プロジェクトぴあの」で、これについては
実はずっと文庫化を待っていたものになります。

ちょっと長い文章になるのですけれども、
単行本時の粗筋を引用してみましょう。

アキバから、宇宙へ。「科学の歌姫」で「最後のアイドル」、そして「人類の恩人」であり「世界の変革者」――これまでの常識を覆した新エンジン「ピアノ・ドライブ」を発明した、結城ぴあのの物語。人気アイドル・グループ「ジャンキッシュ」のメンバーである結城ぴあのには、もう一つの顔があった。秋葉原電気街の“お姫様”。電子部品を買い漁る彼女は、自宅のガレージで一人実験を繰り返していたが、その目的は「宇宙へ行くこと」であった。バラエティ番組のレギュラー・コーナーをきっかけに注目を集め、抜群の歌唱力を兼ね備えていたぴあのは、ジャンキッシュから卒業。“メカぴあの”との対決などを経て、トップ・アイドルへの階段を駆け上がっていく一方で、宇宙への夢を実現すべく、ぴあのは実験を繰り返すのだが……。超科学、人工知能、拡張現実、スーパーフレア……山本弘ワールド全開の感動SF長編。


どんなジャンルでも、それまではまるで
考えられてもいなかった画期的で型破りな
方法でブレイクスルーを達成する天才には、
とかく変人と呼ばれるような人が多いと
しばしば言われたりしていますよね。

本作も、その系譜に連なる作品です。

こういうネタの場合、作中で描かれる天才の
変人ぶりに愛嬌があって、どこか読者を
惹きつけるものであることが望ましのですが、
本作の 結城ぴあの はその点でも及第点。

作中で展開されている物理学の話は文系の
私には分からなかったりもしますけれど、
そこは雰囲気で乗り切れるので問題ありません。

こういうところでリアリティーのある(と思われる)
ウソを書けるのは、とんでも科学研究家としても
知られている山本弘の面目躍如でしょうし、
彼の書くSF作品に面白さがあるということには、
こういうところにも理由があるのだろうと思います。

全部で500ページを超える作品というだけでなく
活字は小さめで1ページ当たりの文字数も多い、
なかなかのボリュームを誇る大作ですが、
非常に読みやすいですし、アイドルという
私達にも結構身近な設定を使っていることもあり、
実にスムーズに、最後まで一気に読み終えました。

実に面白い、いい作品でした。





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「機巧のイヴ 帝都浪漫篇」

2020年04月07日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

以前に紹介した作品から続いているシリーズの
3冊目にして完結編になるという、乾緑郎の
「機巧のイヴ 帝都浪漫篇」を読みました。

まずは、公式の粗筋を引用してみましょう。

浪漫とモダニズムの花咲く1918年。美しき機巧人形・伊武は、女学校の友人・ナオミとともに訪れた猫地蔵坂ホテルで、ある男と運命の出会いを果たす。恋の始まりを予感したそのとき、幸せな日常を引き裂く大震災が襲う。時代の波に翻弄され、廻り出す運命の歯車。そして物語は、大陸の新国家・如洲へ――。心を持たない人形が問いかける、愛とは、そして魂とは。日本SF小説史に残る圧倒的傑作。


関東大震災、甘粕事件、満州国建国といった
実際の歴史で起きたことを架空世界に引き込んで
機巧人形である伊武の物語に絡めるストーリー。

事前に期待していたものを上回るほどの
内容とまでは言いませんけれど、かなり面白くて、
450ページ超えというボリュームにも関わらず
最後まで一気に読ませてもらいました。

前作から登場しているキャラクターも、
今作で登場したキャラクターもどちらも
いい存在感を出しているのがいいですね。

冒頭に書いたように伊武の物語は全3部作として、
今回の『帝都浪漫篇』で完結となる模様です。

それはちょっと残念という気持ちもありますが、
ダラダラと続けても作品の質を落とすだけですし、
物語のまとまりからも、ここで終わっておくというのは
そんなに悪いことではないと思っています。

第二次大戦下の伊武や、終戦後の焼け野原と化した
国土と伊武も読んでみたかった気もしますけれども、
それは私の妄想レベルに留めておくことにしましょう。



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「青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏」

2020年03月26日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

伊与原新の新潮文庫nex書下ろし作品である
「青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏」を、
今回のエントリーでは紹介したいと思います。

まずは、裏表紙に印刷された粗筋から。

東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で『鹿踊り部』のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。


つまり本作は、岩手県の花巻他を舞台にして、
宮沢賢治をストーリーの軸として描かれる、
農業高校の学生たちの織り成す青春小説です。

実家には小さい頃から賢治全集がありました。

また、賢治の童話を朗読しているレコードを
聞かされて育ったというような関係もあって、
私は実際問題、結構な賢治ファンです。

本作はそれに加えて、私が結構意識していて
その著作は全て揃えていこうかなと思っている
伊与原新が作者なのですから、これは、
買わないというわけにはいきませんよね。

そんなわけで、結構な期待ともに読み始めた
「青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏」は、
賢治モノの作品というよりは部活モノの作品、
そして青春モノの作品としての色彩が強い、
というのが全体を通じての印象です。

賢治はあくまで、登場人物たちの青春を
語るための題材の1つに過ぎない。

とはいえ、それが悪いというわけではなくて、
逆に効果的に賢治要素をストーリーに絡めていて、
青春小説としての本作に宮沢賢治の存在は
不可分にして欠かせないものとなっています。

賢治の書いた「銀河鉄道の夜」とその異稿の
相違が物語上の重要な要素になるというのは、
最近どこかで読んだなと思ったのですが、
そういえば山田正紀の『カムパネルラ』
まさしくそれを中心に据えた話でしたね。

あちらは歴史改変的なSFでしたので、
本作とはジャンルがそもそも異なる、
テイストも大きく違う作品ですけれど。

本作を読んだ結果として、花巻その他、
作中に出てきた地域への関心が
今までより更に増してきてしまいましたが、
賢治ファンを自任しているにも関わらず、
実はまだ花巻に行ていないという事実に、
改めて恥じ入らざるを得ません。



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「剣樹抄」

2020年03月16日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

作家の冲方丁は以前に水戸光圀を主人公に
「光圀伝」という傑作を書いていますけれども、
その光圀も大々的に登場してくる作品が、
昨年の7月に発売となった「剣樹抄」です。

帯に印刷された公式の粗筋を引用しましょう。

捨て子を保護し、諜者として育てる幕府の隠密組織“拾人衆”。これを率いる水戸光圀は、父を旗本奴に殺されてのち、自我流の剣法を身につけた少年・六維了助に出会う。拾人衆に加わった了助は、様々な能力に長けた仲間と共に、江戸を焼いた『明暦の大火』が幕府転覆を目論む者たちによる放火だったのではという疑惑を追うが――くじり剣法の六維了助、見参!


時代小説の書き手としてもすっかり定評を
得た感のある冲方丁の今回のこの作品は、
いわば大江戸諜報絵巻な活劇ものです。

本作の主人公はあくまで了助であって
光圀ではないのですけれども、
もの凄く面白くてすっかりハマってしまった
作品の登場人物がこうして別作品でも
重要な役割で登場するのは、いいですね。

作品中で大きな位置を占めて明暦の大火といえば、
別名が振袖火事で、寺での法会で焼かれた
振袖が原因で発生したという俗説がありますが、
実際はその寺だけではなくて小石川や麹町からも
火の手が上がる同時多発の火災だったそうですね。

この火災で江戸所の天守閣は焼け落ちて、
以後、再建されることは無かったわけです。

そしてこの明暦の大火に関しては以前から
放火説というものも囁かれ続けていて、
本作の構想のきっかけになったと思われます。

なお、本作の物語は完結していません。

今でも「オール讀物」でシリーズの掲載は
続いているらしく、いずれ出るであろう
シリーズ2冊目も楽しみでなりません。



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「ワン・モア・ヌーク」

2020年03月02日  
JR中央線、三鷹、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める所属税理士です。

小説というのは時に強く時代性を帯ることがあり、
その時代、その年に、その作品が発表されたこと、
そしてそれを発表の時点で読むということが
非常に大きな意味を持つものがあります。

それは、その小説の内容やテーマが同時代の
出来事や問題や課題といったものに密接に
関係しているような場合に特に起こるもの。

そんな作品の1つが、今回紹介する
藤井太洋の「ワン・モア・ヌーク」です。

まずは、公式の粗筋を掲載してみましょう。

『核の穴は、あなた方をもう一度、特別な存在にしてくれる』。原爆テロを予告する一本の動画が日本を大混乱に陥れた。爆発は3月11日午前零時。福島第一原発事故への繋がりを示唆するメッセージの、その真意を政府は見抜けない。だが科学者と刑事の執念は、互いを欺きながら“正義の瞬間”に向けて疾走するテロリスト二人の歪んだ理想を捉えていた――。戒厳令の東京、110時間のサスペンス。


作品の舞台が東京でオリンピックが開催される
2020年、即ち今年になっているということ。

作中で原爆テロを実行すると予告されたのが、
9年前の2011年に福島第一原発事故の
原因となった東北の震災の起きたその日である
3月11日であると設定されているいうこと。

この2点だけを捉えてみても、この作品が
どれくらい「攻め」の姿勢で書かれた作品、
今この時に読者に対して提示するということに
こだわった作品であるかが分かりますし、
腰巻の帯に印刷された惹句が、また、刺激的でした。

「最後に一度だけ、原爆を東京に。」

本作は、東京のど真ん中に核による汚染を
もたらすことをもくろむテロリストの行動と動機、
そしてそれを追う警察とCIA・IAEA職員の姿を
群像劇的に描写する一級のサスペンス、
エンターテインメント小説になっています。

更に、娯楽小説としての本作を読むことは即ち、
福島第一原発事故後に被災者に向けられた
謂れなき風評被害への作者からの異議申し立て、
放射能に対する誤った知識の流布や偏見
といったものに対し、正しい知識で冷静で的確な
判断をする必要が私たちにはあるのではないか
という作者からの問いかけを受け取ることに
他ならないのではないかと個人的には感じました。

新潮社の Twitterアカウントが2月28日に
「未曾有の事態に直面した時、何より必要なのは
正確な情報とリスク評価。東日本大震災と
福島第一原発事故で小説執筆を決意したという
藤井太洋氏が、“不安”が人命を奪う悲劇に
『初めて正面から挑戦できた』」と本作に関する
投稿をしていましたけれど、本作のスタンスを
コンパクトにかつ的確に語るのであれば、
これが一番分かりやすい説明かもしれません。

また、巻末の解説で中俣暁生は本作のことを、
「本作は希望についての物語である。」としています。

2020年3月6日に始まり、3月10日に終わる、
5日間の物語である本作が、どのように「希望」を
語るものであるのか、興味がある人は、
是非今すぐに購入し、本作を読み始めてください。



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