三鷹駅南口 (武蔵野市、吉祥寺)、とある税理士事務所職員の日常 読書

「ビッグデータ・コネクト」

2017年06月28日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

これまでに読んだ作品の完成度と読了後の満足感から
かなりの期待を持って読み始めることになったのが、
藤井太洋の4つめの長編 「ビッグデータ・コネクト」 です。

タイトルを見ただけでも何となく分かるでしょうけれど
マーケティングの分野で何かと取りざたされることの多い
「ビッグデータ」が今回の題材となっているのですが、
裏表紙の内容紹介をちょっと引用してみましょう。

「京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の操作は進歩的試聴の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計劃の陰に何が?ITを知り尽くした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。」


ビッグデータを商業的に利用するというのは
プライバシーの侵害と密接に関わってきます。

ネット購入や実店舗でのクレジットカードの履歴、
カード番号に暗証番号、Suica 等の利用状況から
導き出される生活圏や移動範囲の情報、
住基カードやマイナンバーから分かる住所や本籍地、
その他諸々のビッグデータがあれば、
その人のことがデータ的に丸裸にできるわけです。

だからこそ、こういったデータの管理と収集・利用には
慎重の上にも慎重を重ねなければならないのですが、
実際の世の中がどうなっているかというと、
故意のものもそうでないものも含めデータ流出の
ニュースが頻繁に発生しているというのが現実ですよね。

なので私としては、それが官主導・民主導であるを問わず、
ビッグデータを収集するということには懐疑的であり、
できればその対象となるのは御免こうむりたいと思っています。

「ビッグデータ」が「コネクト」される状況を題材にした本作は
だからこそ余計に非常に興味深いものであり、
大いに関心をもって読ませてもらったのですが……
いや、これはかなり面白くて刺激的な作品ですね。

ビッグデータを利用する様々なサービスが進む現状に対し
その問題点、その危うさ、その不透明さなどを訴えていく。

そんな作品になっているこの作品なのですけれど、
しかし、それより何より強烈に印象に残るのが
システム開発事業にみられる中抜きに次ぐ中抜きと、
何次請けかカウントするのも馬鹿らしくなるくらいの
下請けばかりが薄利な上に持ち出しばかりで苦労する、
あまりといえばあまりにブラックな労働環境への糾弾。

作者は過去に実際にITエンジニアとして
働いていたことがあるらしいのですが、
だからこそ、この辺りの一連の描写に
これだけのリアリティーがあるわけですね。

これはあくまでフィクションにすぎないのであって
実際にはこんなことは無い、と言えればいいのですが、
実際は、同様のことが今も現実にそこかしこで
行われているというのが本当のところなんでしょうね。

これは、間違ってもITエンジニアだけにはなるなよ、
と自分の子供など言いたくなるレベルの話です。

まあ、私は独身であり子供はいませんけれど。



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「横浜駅SF」

2017年06月18日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

大胆なタイトルが書店で思い切り目を惹いたのが
柞刈湯葉の 「横浜駅SF」 という作品なのですが、
これの発売自体は昨年の末でありつつも
そのまま積読状態になっていたのは、
私にとっては平常運転の通常のパターンです。

今でも結構目立つような陳列がされていますが、
当時、ふと寄った横浜駅の有隣堂では本書が
表紙を向けて平台と壁にズラリと並んでいたものです。

ちなみに私にとって横浜駅というのは一時期、
数年にわたって日常的に利用していたことがあり、
その意味で、個人的にかなり親しみがある駅です。

ちなみに、日本初の鉄道が品川から横浜の間に
敷設されたのは1872年のことなのですが、
その当時の横浜駅は現在の桜木町駅であり、
その後、1915年に高島町駅のところに移転、
更に現在地に移動したのは1928年になってから。

それ以来現在に至るまで、常にそのどこかしらで
何らかの工事が行われ続けている為に、
「日本のサグラダ・ファミリア」だとも称される横浜。

1ヶ所の工事が終わる頃には別の場所で
新しい工事が始まるという繰り返しが続いて
永遠に建設中ではないかとすら思えてしまう、
それこそが横浜駅のアイデンティティーであり、
むしろ完成しないことこそが完成形ではないか、
というような声まで聞こえてくるくらいです。

その駅名を大胆に題名にいただいた小説で
それも「SF」と堂々と名乗っているのですから、
読まずに済ませるという選択肢は無かろうと、
書店でこれを発見した時には思ったものです。

工事中であることが完成形である「横浜駅」の姿、
時代の要請に応えて絶えずその姿を
変化させていく有様というのは、生物、
例えば人間が酸素や栄養を外部から摂取し、
老廃物その他のモノを外部に排出して
常に構成要素の入れ替わりを続けるという
流動的な状態を維持することで生きているのと
同じことだと言ってしまえるのではないか。

そんな発想から、まるで生き物が成長するように
自己増殖を続けて行く横浜駅の姿を描いた本作、
なかなか刺激的で面白い小説となっていました。



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「マイルズの旅路」

2017年05月29日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

ヴォルコシガン・サガの完結編という触れ込みの
ビジョルドの「マイルズの旅路」を読んだのですが、
ヴィクトールもマイルズもイワンも結婚した上に
それぞれにそれぞれ、いい年になっているということ、
作者自身も70歳を目前にしていることを考えれば、
この辺りが幕の引き際としてはいいのかもしれません。

シリーズのファンとしては続けられるものであれば
まだまだこの世界を楽しませてもらいたいという
気持ちが無いとは言いませんけれども……。

もっとも個人的には、このシリーズが一番面白かったのは
マイルズ・ネイスミス提督がマイルズ・ヴォルコシガンに戻る、
その前だったのかなと思ってもいるという面もあります
(その後が面白くないというわけでは、ありません)。

主要キャラクターも歳を重ね、若い頃のような無茶な行動には
さすがに出なくなって(出れなくなって)きているので、
シリーズのテイストも実際、微妙に変質もしていました。

そういう意味でも、程良い完結時期、なのかな。

ただ、今回のエピソードが長いシリーズの
最後を飾るに相応しいものだったかと問われると、
個人的意見ですが正直、その点では微妙な気も。

どうせならば、もっと派手に盛り上がるものが
最後に来てほしかったような気がします。

シリーズの最後に日本的な要素を入れ込んできたのは
ビジョルドからの、シリーズをずっと愛してきた
日本人読者へのサービスと感謝の表れでしょう。

それは単純に、嬉しいなと思います。

ラストでさらっと、シリーズを通じての重要人物に
あることが起きるのですが、それが確かにはっきりと、
寂しいけれどもヴォルコシガン・サガという
物語の終わりを告げているのだなと感じられました。

もう1作、マイルズの母コーデリアを主人公にした
作品があるということなので完全に終わった
というわけではないようなのですけれども、
20冊を超えるシリーズを長年楽しませてもらったので、
今はただ、ありがとう、と言わせていただきましょう。



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「夜行」

2017年04月29日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

昨年10月に発売された森見登美彦の「夜行」は
第156回直木賞のノミネート作品になったりもしたので、
「聞いたことがある」という人も多いかもしれません。

十年前の鞍馬の宵祭りの最中に姿を消してしまった
1人の女性の存在を軸に、その時の鞍馬観光に参加した
残りの5名がそれぞれに体験することになる
不思議な体験を綴るという体の、全5章という構成。

そしてこれは、明朗愉快な「腐れ大学生モノ」や
軽妙なユーモアのある典型的なミリも作品では無く、
夜の闇に潜んでいる不思議怪奇を描く物語です。

怪談のテイストが強いと言ってもいいでしょう。

グロテスクやスプラッタ、人死に等は出てこないけれど、
全編を通じて、背筋にぞくっと来るような薄気味悪さ、
生理的なところで神経を逆なでしてくるような
落ち着かなさを読者にもたらしてくるような読み心地。

これは、かなりクセになる味わいですね。

一応、最終章においてそれまでのことに
多少の決着は付けられているのですけれども、
各章におけるゾワッとした読了感はそのままで、
それでこそ怪談、という感じだと言えましょう。

この手が苦手な人にはキツい作品だと思われます。

普段は日常の裏側の闇に静かに潜む非日常が
日常を浸食してくる様を描くことにこそ意味があり、
そこに論理的な解釈や謎解きは必要ではない。

この「夜行」というのは、そういう作品です。



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「魔導の系譜」

2017年04月19日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作、
佐藤さくら の「魔導の系譜」を読んでみたのですが、
審査員の1人だったらしい三村美衣の解説文によると、
主に異世界を紙面に幻出させる表現力という点で
ふさわしくないという意見もあったようですが、
そこを全面改稿するという条件付での受賞作とのこと。

そうして応募原稿に手を入れた後に出版されたのが、
つまり本書の内容ということになるわけですが……

もともとの投稿版は当然読むこともできないので
どのように変わったのかは分からないながら、
とりあえず、この発売版ではそこで気になる
というようなことはとりたててありませんでした。

そこは、作家本人と担当の編集者とが
あれこれと頑張った結果ということでしょう。

魔導士が虐げられる国で、絶対的な知識を誇りながらも
根本的な実力不足により三流の烙印を押されて
田舎で私塾を開いている魔導士レオンの元に、
被差別民族の出身で幼い頃に野盗に家族を殺されて
潜在能力は桁違いながらも魔導を学ぶことを
拒み続けてきた少年が預けられることから始まる物語。

いかにも東京創元社から出された作品という感じの
非常に渋い王道ファンタジーだと感じました。

本格的なファンタジーが好きだという人でなければ
手に取りにくいだろう内容の作品とは思いますし、
活字が小さい上に全470ページというボリュームで
腰が引けもするでしょうが、読み応えがあると同時に、
最初から最後まで一気に読ませるだけの魅力もあるので、
そこは安心して手に取ってみてください。

ただ、本作は終わり方にちょっと難ありだということは、
ここで最後にお断りしておかなければなりません。

破綻しているとか、物語としてどうかしているとか、
そういうことではないのですけれども、正直、
「えっ、そこで終わり?」と感じてしまうのは否めません。

幸いにもこの第1作がそれなりに講評だったようで、
シリーズ第2巻が既に発売されていますから、
そちらを読めば、この不満は多少、解消されるのかな?



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「コロボックルに出会うまで」

2017年04月09日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

ちょうど2ヶ月前の2月9日に亡くなった 佐藤さとる さん。

個人的には、彼の最高傑作は「わんぱく天国」だと
ずっと思っているのですけれどもやはり世間一般的には
何といってもコロボックルシリーズが有名でしょう。

そんな彼の、工業専門学校を卒業してから、
転職をしつつ童話作家を目指す日々の中で
上記コロボックルシリーズの第1作目である
「だれも知らない小さな国」のアイディアを
思いつくまでを描いた自伝的な小説。

それが、「コロボックルに出会うまで
自伝小説 サットルと「豆の木」」になります。

これを読んだのは彼への追悼の気持ちの現れであり、
小さい頃より作品に親しんでいた彼の訃報には
やはりショックを受けずにはおれなかったものです。

こういう訃報に触れるとしばしば思うことなのですが
私が子供の頃に読んだ作家だったということは、
その私が中年になっている今はおいくつかを考えると
そういうニュースをしばしば目にするようになるのも、
やむを得ない、ある意味では自然ことではあります。

本作はあくまで児童小説家として築いてきた
彼のスタイルで書かれているからでしょうか、
ややダイジェスト的というか、覚書的というか、
もうちょっと色々と描写して語ってくれれば
青春小説としてもいい感じになったのにと
思ってしまう部分があったのは、少々残念。

しかしこれはこれで、いかにも 佐藤さとる っぽい、
というようにも思えるものでは、あります。

ちなみに他にも未読の作品は幾つかあるので、
それも、時間をみつけつつ少しずつでいいから
読み進めて行こうかと、そんな風に思っています。



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「となりの革命農家」

2017年03月30日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

それが作家としての1つのテーマなのかもしれませんが、
以前に紹介した「限界集落株式会社」その続編同様に
現代日本の農村(及び農業)の置かれている状況と
その抱えている問題の解決策の模索を題材にしている、
黒野伸一の「となりの革命農家」を読みました。

農薬を使う従来の慣行農法から有機農法への転換と
異業種からの農業法人参入のあるべき姿とは
どういうものなのかが今回のネタというところでしょうか。

その為、Y県大沼市を舞台にした本作の物語は大きく
2つの視点、2人のキャラクターを中心に進んでいきます。

まず、農家の家に生まれてお決まりのように
一度は東京に出たもののそこでの生活に馴染まずに帰郷、
今は道の駅で販売員をしている小原和也。

彼は自分で作った野菜を直売場で売ってくれないかと
持ち込んできた少女と共に有機農法に取り組みます。

続いて、大沼氏に進出した農業生産法人である
アグリコ・ジャパン部長の上田理保子がもう1人の主役で、
親会社である東日本フーズでは大学を卒業してから
わずか3年で役付きになるなど異例の出世をしていたものの、
上司である常務と専務との社内の権力抗争に巻き込まれて
アグリコ・ジャパンに出向することになってしまいます。

やがて大沼市に、Y県の主導で農業用水路の整備と
農道の拡張を行おうではないかという公共事業の話が
持ち上がってくるのですが……というのが、物語の流れです。

水路整備と農道拡張ということは通常でしたらむしろ
農業の効率化や生産量の増加に繋がる話ですから、
もちろん用地買収などで問題が全く無いとは言わないものの、
全体としてはむしろ良い効果が見込まれることなわけです。

しかし、これは物語なので、当然この公共事業の裏側には
表沙汰にできない真の目的や利権や汚職といったものが
色々と絡み合って来て、そこが本作のヤマ場になります。

恋愛要素もありエンタメ小説として押さえるべきところは押さえ、
面白く読ませてもらえる作品になっていると思いますが、
難を言えば、農業法人による大規模農業との比較として
個人農家による有機農法を持ってくるのは分かるのものの、
作品中で、それぞれがそれぞれに別の物語を描いていて
乖離とは言わずとも今一つ合流しない感があるのは、残念です。

それと、同じような題材をあちこちで書いているようだと、
書き手自らの手で自身の持ちネタの価値を下げかねないから、
あまりやらない方がいいのではないかとも思いました。

 となりの革命農家
 (2015/3/4)
 黒野 伸一
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テーマ : 読んだ本の紹介 ジャンル : 本・雑誌

「波の手紙が響くとき」

2017年03月16日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

オーディオルームの設計やメンテナンスを
主要業務とする武佐音響研究所に持ち込まれる
様々な依頼を、天使の声帯を持つ所長の佐敷裕一郎、
口の悪い音響技術者の武藤富士伸、
雑用係の鍋島カリンという3人の所員が
音響的な知識や技術を駆使して解決して行く物語。

それが、オキシタケヒコの「波の手紙が響くとき」です。

本作は、短編・中編合わせて全4章からなっていて、
この内、第1章はSFというよりもミステリーという印象が強く、
なんでこれが「ハヤカワSFシリーズ Jコレクション」から
出ているのかと、正直、首をひねったりもしました。

しかし、その後、物語を読み進めて行くにつれ
分かったのですが、なる程、これが確かにSFです。

登場するキャラクターが多少ステレオタイプに見えるのが
いかにも気になって仕方がないところになりますし、
そのわりに今一つキャラ立てできてない部分もありますが、
概して、いい感じの関係が描かれていたと思います。

私は結構な音楽好きでコレクターですが、それだけに、
音楽が(更に言えば「音」が)人に及ぼす影響は感じてます。

実際、テンションを上げる為にはこういう音楽、
落ち着いた気分で疲れを抜くならこういう音楽といった、
自分にとって定番のミュージシャンや楽曲もあります。

ですので、本作後半に観られる展開は、
明らかなフィクションではありつつも
あながち無茶苦茶な展開でも無いなという、
一定のリアリティーを感じさせるようなものでした。

その辺がSF的であり、本作の面白かったところです。

音楽が人の感情に働きかけるモノが大であるならば、
「いずくんぞ〇〇に対してをや」ということですね。

なお、物語はこの1冊で一応の完結を見ているものの、
佐敷所長の実家関係のアレコレが片付いていない等、
これから先に続けられる要素も幾つかあるので、
まだまだこの設定で様々なエピソードを書いて
続巻も出してほしいなと個人的には感じました。

それが叶うかどうかは分かりませんけれども、
可能性はゼロでは無いと信じたいところです。

 波の手紙が響くとき
 (2015/5/22)
 オキシ タケヒコ
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「十二人の死にたい子どもたち」

2017年03月05日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

第156回直木賞のノミネート作品にもなった
冲方丁の「十二人の死にたい子どもたち」という作品は、
本屋大賞を受賞した「天地明察」等で知られる
著者が初めて手掛けた現代長編ミステリーとのこと。

この作品はそのタイトルを見れば分かる通り
レジナルド・ローズの「十二人の怒れる男」と、
そのオマージュとして製作された
三谷幸喜の「12人の優しい日本人」を踏まえて
書かれたものであることは明白です。

そう言えば以前にどこかのインタビューで
冲方丁が「十二人の怒れる男」のことを
絶賛していたような記憶があります。

特にそれを意識しての事では無いものの
図らずも作家生活20周年記念作品となったと
自身のブログに書かれていたのですけれども、
そこには、本作は発案してから書くまでに12年、
更に雑誌に1年ほど連載するという過程を経て、
ようやく形になったとも書かれていました。

それだけ、大事にしてきた構想ということですね。

そういえば、「天地明察」も彼がまだ学生だった頃から
いつかは書きたいと思い描いていた題材だったはず。

そういう、自分の中で大事なテーマについては
かなり慎重に、長い期間をかけて構想を練る傾向が
冲方丁という作家には、あるのかもしれませんね。

本作は、元になっている作品が作品ですから
閉鎖環境に集まった十二人の子どもたちが
議論を繰り広げて行く物語になっているだろうとは
読み始める前から容易に想像ができていました。

ただし、舞台は法廷ではなくて廃業された病院。

登場する人物達は裁判で呼ばれた陪審員ではなくて
自ら集団安楽死を望んで集まった少年少女。

そこに違いがあっても基本的なラインは変わらないなら
物語の流れもおおよその見当はつけられるので、
そこから逆算して、各キャラクターの言動を
観察するように読み進めていくことになった結果、
ラストの展開や某登場人物の立ち位置も事前に
割と予測できてしまったのは、否めないところ。

もし「十二人の怒れる男」や「12人の優しい日本人」の
内容を事前に知らない状態であったならば、
凄く新鮮な気持ちで読めたかもしれないと思えば
そこはやや残念かもしれないのですけれども、
とはいえ、面白く読ませてもらいましたので
そこもとりたてて大きな問題にはならなかったと言えます。

 十二人の
 死にたい子どもたち

 (2016/10/15)
 冲方 丁
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「深紅の碑文」

2017年02月22日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

地球全土に大氷河期をもたらすと予想される
地球内部の熱循環であるプルームテクトニクスが
引き起こす壊滅的な環境変動 <大異変> が、
早ければ数十年後に現実のものとなることが
科学的に確実となってしまっている世界。

つまり、人類の滅亡が確定している世界で、
それでもわずかなりの希望の為に少しでも
最善の道を辿ろうともがく人々を描く作品です。

世界と人類の終焉が確定というのが大前提なので、
暗く重苦しい内容や語り口は致し方ないことでしょう。

同じ世界、登場人物が出てくるシリーズ前作の
「華龍の宮」ではそれでも、<大異変>後の世界に
人がいかにして生き残るか、という部分にも
多少は焦点が合っていたような印象があるのですが……

本作は、目前にある避けえないカタストロフィーに対し、
陸上民と海上民の、そしてそれぞれの中でも対立する
人々の争いをどうやって終わらせるのか。

そういう、ネゴシエーション的なところが
クローズアップされた物語になっています。

奇跡的な解決策や技術革新ということではなく、
99%以上の確率で負け戦になると分かっていて
それでもなお抗い続ける人の姿を描くことが
この作品のキモになる部分というわけですね。

そこに物語的な意味でのカタルシスは無いのですが、
じわじわと心に迫ってくるもののある作品だと感じました。

 深紅の碑文(下)
 (2016/2/24)
 上田 早夕里
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