三鷹駅南口 (武蔵野市、吉祥寺)、とある税理士事務所職員の日常 読書

「アルテミス」

2018年06月22日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

デビュー作「火星の人」が実写映画化されるなど
したことで(映画のタイトルは「オデッセイ」)、
全世界的に話題になったりしたアンディ・ウィアーの、
長編2作品目となるのが「アルテミス」です。

火星を舞台にして1人取り残された宇宙飛行士が
何とか地球に戻ろうとするサバイバルを描いた
「火星の人」(「オデッセイ」)に対し、今回のこちらは
近未来の月面に建設された観光・資源開発都市
「アルテミス」を舞台にした作品となっています。

火星の次は月、というわけですね。

ジャンル的には一応、SF+サスペンスということに
なるのであろう本作の、上下巻の公式の粗筋を
軽く編集した上で、以下に掲載してみましょう。

「人類初の月面都市アルテミス──直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2000人の住民が生活するこの都市で、合法/非合法の品物を運ぶポーターとして暮らす女性ジャズ・バシャラは、大物実業家のトロンドから」、企業買収が絡んだ破壊工作の仕事を受ける。「普段の運び屋仕事と違う内容に戸惑うジャズ。だが、彼女は破格の報酬に目がくらみ、仕事を引き受ける。溶接工を父にもち、自らも船外活動の心得があるジャズは、友人の凄腕科学者スヴォボダの助けを借り、ドーム外での死と隣り合わせの作業計画を練っていく。」



本品はジャズの1人称語りで進むのですが、
ここのノリが完璧にアメリカンな感じなのが
最後まで微妙な違和感を感じさせたのが
個人的にちょっと乗り切れなかった部分でした。

一応ジャズは物心ついた頃からアルテミス在住で
親の母国の記憶などは持ってはいないという
設定なのですが、アラブ系の移民なのだから、
小さいころからアラブ系のコミュニティーに
接していたはずなのではないのかな……。

そこに目をつぶれば、前作には少々劣るものの、
概ね、今回もまずまずといえる作品でした。

突出して何か凄いことがあるわけではなく、
またその逆に酷く批判したいこともなくて、
普通に面白いと言えば分かりやすいでしょうか。

上巻の後半ぐらいまでは物語のドライブ感が足りず、
読んでいて今一つページの進みが遅かったけれども、
そこから先はグッとテンションが高まる感じで
わりと一気に最後まで読み切らせてもらいました。




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「トッカン 徴収ロワイヤル」

2018年06月12日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

税務署勤務の特別徴収官付徴収官を主人公にした
シリーズ4作目となる「トッカン 徴収ロワイヤル」は、
実に6年振りに近いスパンが開いて発売された新作。

今回の帯には「<トッカン>シリーズ初の短篇集!」
との文句が踊っていて、内容的にもそんな感じです。

「税金滞納者に日々納税指導を行なう、国の取り立て屋・国税徴収官は、必要不可欠だけれど、一般には好かれにくい、厳し~い職業である。なかでも、とくに悪質な案件を扱うのが、特別国税徴収官(略してトッカン)だ。情け容赦のない取り立てで「京橋中央署の死に神」と怖れられるトッカン鏡の下、若手徴収官ぐー子が挑むのは、税金とその奥にひそむ人生の難問の数々――飲食店の巧妙に隠された滞納金捜しや、相続税が払えない老婦人の救済と公売ハウツー、税大研修での鬼畜ゼミ発表会や、ブランド品密売人を追っての対馬出張大捕物など……鬼上司・鏡によって磨かれたぐー子の徴収スキルが炸裂するとき、待ち受ける意外なラストとは? バラエティ豊かな徴収官たちの仕事ぶりを、鏡とぐー子がお伝えします。お金の勉強になりつつ、明日への希望が溢れてくる、No.1税金ミステリ『トッカン』シリーズ初の短篇集。全6篇収録。」


というのが公式の粗筋となっているのですが、
6篇のうち2つはかなり短めのものになっているので、
実質的には「全4篇+ショートエピソード×2」
というくらいが正確なのではないかなと思います。

ただし、そのことと、作品の面白さとは別の問題。

個人的に今回は、税務大学校での研修エピソードが、
若手国税職員にとってあるある的なアレコレが
ユーモアをまじえて描かれていて楽しめました。

実態が真実この通りなのかそれとも違うのかは
私は国税職員だったことがないので分かりませんが、
そこはきちんと取材をして書いているのでしょうし、
その上で作者による脚色が加えられているとしても
エンターテインメントである以上、そこそこのアレンジは
あって当たり前とも言えるので、問題はないでしょう。

久し振りの「トッカン」シリーズ新刊となりましたが、
ページを捲りだしてみると、やはりこの作品は面白い。

今回は全体的にぐー子の物語としての色味が
今まで以上に強くて鏡特官の出番が少なかったので、
次回作では鏡無双を存分に楽しませてほしいものです。



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「機巧のイヴ」

2018年06月02日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

昨年秋に本屋の文庫新刊コーナーで見かけ
ちょっと興味を惹かれて購入しておいたのが、
江戸時代後期辺りがモデルと思われる架空世界を
舞台にした時代小説風SFの「機巧のイヴ」。

内容的には、機械人形、オートメイルには
心が宿るのか、ということを描いた作品になります。

SFとしては非常にオーソドックスな題材ですね。

巻末の解説で大森望も書いていますが、
こういう話ならばいわゆるスチームパンクな
世界観にしてきそうなところを本作はあくまで、
江戸時代の風俗や技術に即した描き方を
しているところが大きなポイントとないます。

その中で人と比べて違和感のない動作や表情、
そして会話を繰り広げられる伊武の異質さが
際立ってくることになっていくのですけれども……

作中には、何故そのような時代にそぐわない技術が
そこにあったのかについての言及はありません。

こういう場合の常套として何者かがその技術を与えた、
宇宙からの来訪者か未来からの使者かというような
そういうお約束を踏襲しているネタが隠れているのか、
あるいはそれ以外のことが構想されているのか、
正解は現時点で明らかにされていないのです。

その辺は続編を読んでから判断、でしょうか。



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「滑らかな虹」

2018年05月22日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前にかなり面白いとしてここでも紹介した
「ゴースト≠ノイズ(リダクション」に続く
長編2作品目が、十市社 の「滑らかな虹」。

被害者が転校してしまうという厳しい
結果となった「いじめ」事件があった小学校で、
その「いじめ」の中心となっていた生徒の
クラスを担任することになった男性教師が、
再びいじめが起きてしまうことを防ぐという目的で、
クラスの全員に提案した「ニンテイ」ゲーム。

本作は、その「ニンテイゲーム」の顛末を描きます。

そのまま平穏に進行して行くわけがないと、
どこかで破綻して、それをやらなかったよりも
もっと酷いことになっていくのだろうなという
予想も覚悟もできていたのですけれど、
こういう方向で酷くなるとはちょっと想定外でした。

どのように破綻して行くのかはネタバレを防いで
これから本作を読むであろう人の為に伏せますが、
つまるところ、この方向性こそが、作者がこの作品で
やりたかったことなのだろうなと推測できます。

導入のところで「いじめ」がフォーカスされていたので
それがメインになるのかと当初は思っていたのですが、
その答えがどうであったにせよ、色々な意味で
あまり心地の良い題材では無いということは、
一応ここで明確に断言しておきましょう。

気分爽快になる物語、スカッとする勧善懲悪なテイスト、
明るく希望に満ちたラスト、純な登場人物達、
といった要素を学校舞台の作品に求める人には
絶対に合わない作品ですが、面白く読みました。

とはいえ、粗の無い完璧というわけでは無くて、
致命的にも成り得る欠点が本作にはあります。

それが、物語の根幹をなす「ニンテイ」ゲーム。

これがあるからこそ「滑らかな虹」というストーリーが
成立し得ているとうことは確かなのですけれども、
そもそもそこに大きな無理があるというか、
何で5年3組担任である柿崎辰巳は「いじめ」対策として
それを考えたのか、新たなる「いじめ」の抑制に
「ニンテイ」ゲームがどのように有効なのか、
学校や保護者側もその実施を認めているという描写は
一応冒頭にあったもののそこに説得力は薄かったです。

全体的に、「ニンテイ」ゲームの実施関係には
リアリティーが薄すぎで、全く足りておらず、
結局、それが最後まで尾を引いていて、
物語の完成度を落としている様に感じました。


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「ヒストリア」

2018年05月12日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

昨年8月に発売になった池上永一の「ヒストリア」は、
キャリアが23年になる作者が書いた前作から
数えて4年振りになる13作目の小説作品です。

池上永一といえばごく1部の作品を除いて
自身の出身である沖縄を舞台にした作品を
描き続けてきた作家なわけですけれども、
この「ヒストリア」は装丁に描かれているのが、
いきなりチェ・ゲバラなのが目を惹きます。

しかし本作は彼のを描いたのではありません。

今まで沖縄戦について触れずに来た池上永一が、
満を持して描いた、大戦末期の沖縄と終戦、
駐留している米軍に用地を奪われた人々の
ボリビアへの移民といった題材を扱った物語です。

そこは池上永一作品なので、本作の主人公は
非常にバイタリティーの溢れる女性、知花煉。

沖縄戦における米軍による激しい攻撃で
自身の家族を含む故郷の村全てを失い、
マブイを落とした彼女が辿る激動の人生を
沖縄日本返還の1972年まで描く年代記、
一大絵巻であり、日系3世のイノウエ兄弟、
チェ・ゲバラ等々、魅力的なキャラクターが
登場して波乱万丈の物語を紡いでいきます。

池上永一の小説はとかく(いい意味での)暴走が
付きものなわけですけれど、本作に関しては
そこまで大きな暴走をしたという感はありません。

冷静になって振り返れば、あちこちで暴走をしていた
と気が付くのですけれど、実際に本書のページを
捲っている時にそういう意識がなかったのは、
敢えてそのようにしたのか、そうでないのか……

ともあれ、チェ・ゲバラの没後50年にして
沖縄の本土復帰45年年に発売された本作は
池上永一のこれまでの作家活動の総決算であり、
同時に、これからを占う試金石にもなった
非常に意味の深い作品ではないかと思われます。



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「磁極反転の日」

2018年04月26日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

地球のことを1つの巨大な棒磁石に例えると
北極がS極で南極にN極になるわけですけれども、
その磁極が逆になってしまう事態を描いた小説が、
伊予原新の「磁極反転の日」になります。

地球の地軸が移動するポールシフトとは違って
本作が題材とする磁極反転が起きたとしても
自転軸そのものは変わらないわけだから、
どちらかといえば災害としては軽微なものに
なるのではなかろうかと思ったら、それは間違い。

私は専門家ではないので間違いを書いてしまう
かもしれませんけれども、本書から得たこと、
それに以前から知っていたことを合わせて考えると、
磁極が今と真逆に反転するに至る経緯において、
まず現在ある地磁気が徐々に弱まることから始まり、
地球を包む地磁気がゼロになる段階を経て、
次にようやく、それまでとは反転した形で
磁極が復活してくるというプロセスを踏むようです。

つまり、有害な宇宙線から地上を守っていた、
その「盾」が一定期間失われてしまうわけですね。

それが動植物にいかなる影響を及ぼすか分からず、
また、私達の現在の生活の基盤ともなっている
様々な電子機器が降り注ぐ宇宙線によって破壊され、
現代文明が崩壊する恐れも、大になるわけです。

そんなとんでもない事態が現在の地球を襲うとなれば、
どんなことになってしまうのか考えるだに恐ろしい……

これはおそらく、とんでもない騒動の中で暴動とか、
そういうことが全国あちこちで起きてしまうというような
パニック小説になっているのかなと思って読んでみたら、
週刊誌の科学系フリーライターを主人公にして
彼女が取材をしていく過程で知ることになること等と、
政府等が丁寧に冷静に対応する様を描いていました。

そういう点で当初に予想していたディザスター物的な
内容とは全然違っていたとも言えるのですが、
いかにもフィクション的な派手なカタストロフを
物語に選ばなかった結果として本作には、
地に足がついたような一定のリアリティーのある、
言わばシミュレーション小説であるかのような
印象が生じたのではないか、という気がします。

結果、地味なテイストの作品になったことは否めません。

「そこをそのままにして物語を閉じてしまうのか」という、
エンターテインメントとして考えた時にはどうなんだろう
という部分もありますけれども、伊与原新にとっての
本作を書くテーマは、そこには無かったのでしょう。

そもそも、物語の軸足は磁極反転には無くて、
それはあくまでもストーリーを紡ぐための
装置の1つにすぎないだとも思えますし。

思っていたのとは少し違いましたが、
なかなか、面白く読ませてもらいました。


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「公正的戦闘規範」

2018年04月15日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

藤井太洋の初短編集が昨年8月に発売された
「公正的戦闘規範」になるのですけれども、
ここには、これまでに早川書房で発表されてきた
4つの短編に書下ろしを加えた5作品、順に、
「コラボレーション」「常夏の夜」「公正的戦闘規範」
「第二内戦」「軌道の環」が収録されています。

技術やシステムの進化が人の世にもたらすものと
それによって変わる「人の在り方」というようなものが、
全ての作品に通底するテーマなのかと感じました。

それはこれまで読んだ彼の長編作品にも共通する
というような気がしていますから、つまるところ、
作家としての藤井太洋の基本的テーマが、
そこにあるのということなのかもしれません。

SF的には定番である一般的な題材ではありますが、
巻末の解説で大野万紀が書いているように
藤井太洋はかなりヘヴィーでディストピア的な状況が
科学技術と人の在り方の変容で前向きな未来を
迎える可能性を描くことに、その特徴があるのでしょう。

だから、洒落にならない状況が描かれていたとしても、
読後感はかなり爽やかだったりするわけです。

この5編の中で私が一番気に入っているのは表題作の
「公正的戦闘規範」でしたが、次いで「常夏の夜」が良く、
残りは同格3位ということになるかなと感じていますが、
「第二内線」の、アメリカに近い将来起こり得るかもしれない
2極分裂を描いているところは面白かったので、
強いて1つを選ぶならばそれが第3位です。

ただ、非常にハイレベルなところでの僅差の話なので、
基本、どの作品を読んでも大いに楽しめると思います。

知的刺激があって面白い、お勧めの短編集です。


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「100億人のヨリコさん」

2018年04月05日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

森見登美彦が得意としているようなヘタレ学生ものを
書いてきたのかなと思わせてくる序盤の流れから、
七不思議的な怪談を科学で解き明かそうという
ミステリーになってきたなと思わせてきた後に、
更にとんでもない方向に舵を切ってくるのが、
今回紹介する似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」です。

「サダコ。カヤコ。そして――!!……え、ヨリコさん?エンタメ史上に残る凶悪ヒロイン、大量出現!?圧倒的な熱量で奇想が暴走する、傑作パニックサスペンス!」


と、腰巻の帯には煽り文句が印刷されていますが、
個人的に、本作のジャンルはSFだと思います。

こんなことを書くと、SF原理主義者な方との
「SFの定義とは」という古来より様々な立場が表明され
結論が出ない(というか、出るわけもない)不毛な議論に
巻き込まれてしまうかもしれないのですけれども……

それでも、ここは断言させていただきましょう、
似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」は、SFです!

いつもの似鳥作品のように、地の文の冗長な語り口と
時折挿入されてくる(まるで論文のような)用語脚注という
スタイルは今回も健在で、その軽やかなノリの良さが
序盤のユーモア小説的雰囲気を生んでいます。

やがて、それが段々とバッドトリップのような酩酊感と、
背筋にゾッとくるようなテイストをも醸し出すというのが、
そのギャップで読者を引き付けるのに非常に効果的です。

これを計算してやっていても凄いと思うのですが、
本作については、どうやらそこまで緻密に
計算しつくして書かれているというよりも、
いわゆる「物語が降りてきた」状態で書いた、
ということであるらしいフシが見えます。

その結果が、これだけの面白い作品か……

ネタバレは一切したくないタイプの作品なので
これ以上具体的な言及は避けておきますけれど、
これは、かなりのお薦め作品だと言えます。

ただし、人によっては、ちょっとしたホラー小説を
読み終えたような読後感になるかもしれません。

なので、そういうのが苦手である人にとっては、
本作を読んでみるかそれとも止めておくかは、
熟慮の末に決めた方がいいかもしれませんね。



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「ゲームの王国」

2018年03月25日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

私が定期的にチェックしている書評サイトや
好きな作家からの評判も良かったので、
これは是非購入して一気読みしなければ
と、寝不足上等の覚悟でページを捲ったのが、
小川哲の 「ゲームの王国」 上下巻です。

クメール・ルージュが支配するポル・ポト政権時代で
恐怖政治の下に生きる人々を描いた上巻と、
現代カンボジアでの<ゲーム>を描く下巻。

全編を読んで分かるのは本作は最初から最後まで、
「ルール」という言葉が根底に流れているということ。

単に「ルール」と言ってもその内容には色々ありますが、
この「ルール」は、例えばスポーツの「ルール」だったり
麻雀・ポーカー等の遊戯の「ルール」というものだけでなく、
社会の「ルール」や国家の「ルール」というものも含みます。

主要な登場人物の1人であるソリヤの言葉を借りれば
「法律が機能していて、理不尽なこともない。
みんなスタート地点は同じで、
才能と努力によって誰でも勝利することができる」
「公正なルールが設定され、人々がそれを守る社会」。

その内容はともかくとして、高い理想を掲げて
それを実践しようとし、そして失敗した
ポル・ポト政権の生み出した、あまりに多くの死。

その陰惨さが育んだ2人の男女の理想と思念の
行きつく先が果たしてどうなってしまうのかは、
これから本作を読む人のお楽しみですけれども、
こう来たかと、かなり面白く読ませてもらいました。

もう少し書きこみが欲しい、もっとエピソードが欲しい、
というような部分が無かったわけではありませんが、
デビュー2作目でこれというのは、なかなか
将来が楽しみな作家だと言うことが出来そうです。

最高に楽しめました。





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「横濱エトランゼ」

2018年03月15日  
JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前に紹介した蜂須賀敬明の「横浜大戦争」同日に
同じ書店で買いつつしばらく放置してしまっていた
大崎梢の「横濱エトランゼ」をようやく読了しました。

これ等を購入した昨年6月辺りにはもしかしたら
出版界で特に「横浜ブーム」とでも呼ぶものが起きて、
それで横浜絡みの小説が連続して出ることになった
のでもないでしょうが、柞刈湯葉 の「横浜駅SF」以降、
タイトルに「横浜」を冠した作品が立て続けに複数出た
という印象が結構強く、私の中にはあります。

本作の物語の主人公は、大学の推薦入学が決まり、
卒業を待つばかりのイラストの得意な女子高生。

彼女が卒業までの間の短期バイトをしているのが
横浜中心地区を題材にするタウン誌編集部なのですが、
そこの本来の編集長がヘルニアで療養に入った為に
今は彼女が昔から密かに想いを寄せている
7歳年上の幼馴染が臨時編集長に任命されています。

つまり、彼女にはそこでのバイトをすることを通じて
幼馴染との関係を進めたいという気持ちもあるわけで、
その辺りのもどかしさも、一応、読みどころの1つです
(そこへはあまり焦点があわないので、一応としました)。

形式としては連作短編であり、「元町ロンリネス」に始まり
「山手ラビリンス」「根岸メモリーズ」「関内キング」
「馬車道セレナーデ」の合計5編が収録されています。

それぞれ横浜の観光名所(この中で根岸に関しては
他と比べるとちょっとマイナーかもしれませんが、
根岸森林公園と競馬場跡がありますしね)を題に冠して、
地区の歴史を絡めたストーリーとなっており
なかなか楽しく読ませてもらいました。

欲を言わせてもらえばそれぞれのストーリーに
もう1つ2つくらいのインパクトというか、
パンチが効いたところが欲しかったというような
気もしないでもないのものの、これはこれでアリかと。

ただし、横濱市民でなければとまでは言わないまでも
元々横浜の歴史を少し知っているような人でない限り、
残念ながら今一つ入れない作品かもしれません。



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