JR中央線三鷹駅、吉祥寺の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。
これまでに読んだ作品の完成度と読了後の満足感から
かなりの期待を持って読み始めることになったのが、
藤井太洋の4つめの長編 「ビッグデータ・コネクト」 です。
タイトルを見ただけでも何となく分かるでしょうけれど
マーケティングの分野で何かと取りざたされることの多い
「ビッグデータ」が今回の題材となっているのですが、
裏表紙の内容紹介をちょっと引用してみましょう。
「京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の操作は進歩的試聴の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計劃の陰に何が?ITを知り尽くした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。」
ビッグデータを商業的に利用するというのは
プライバシーの侵害と密接に関わってきます。
ネット購入や実店舗でのクレジットカードの履歴、
カード番号に暗証番号、Suica 等の利用状況から
導き出される生活圏や移動範囲の情報、
住基カードやマイナンバーから分かる住所や本籍地、
その他諸々のビッグデータがあれば、
その人のことがデータ的に丸裸にできるわけです。
だからこそ、こういったデータの管理と収集・利用には
慎重の上にも慎重を重ねなければならないのですが、
実際の世の中がどうなっているかというと、
故意のものもそうでないものも含めデータ流出の
ニュースが頻繁に発生しているというのが現実ですよね。
なので私としては、それが官主導・民主導であるを問わず、
ビッグデータを収集するということには懐疑的であり、
できればその対象となるのは御免こうむりたいと思っています。
「ビッグデータ」が「コネクト」される状況を題材にした本作は
だからこそ余計に非常に興味深いものであり、
大いに関心をもって読ませてもらったのですが……
いや、これはかなり面白くて刺激的な作品ですね。
ビッグデータを利用する様々なサービスが進む現状に対し
その問題点、その危うさ、その不透明さなどを訴えていく。
そんな作品になっているこの作品なのですけれど、
しかし、それより何より強烈に印象に残るのが
システム開発事業にみられる中抜きに次ぐ中抜きと、
何次請けかカウントするのも馬鹿らしくなるくらいの
下請けばかりが薄利な上に持ち出しばかりで苦労する、
あまりといえばあまりにブラックな労働環境への糾弾。
作者は過去に実際にITエンジニアとして
働いていたことがあるらしいのですが、
だからこそ、この辺りの一連の描写に
これだけのリアリティーがあるわけですね。
これはあくまでフィクションにすぎないのであって
実際にはこんなことは無い、と言えればいいのですが、
実際は、同様のことが今も現実にそこかしこで
行われているというのが本当のところなんでしょうね。
これは、間違ってもITエンジニアだけにはなるなよ、
と自分の子供など言いたくなるレベルの話です。
まあ、私は独身であり子供はいませんけれど。
カテゴリ : 読書
テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学