「100億人のヨリコさん」
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。
森見登美彦が得意としているようなヘタレ学生ものを
書いてきたのかなと思わせてくる序盤の流れから、
七不思議的な怪談を科学で解き明かそうという
ミステリーになってきたなと思わせてきた後に、
更にとんでもない方向に舵を切ってくるのが、
今回紹介する似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」です。
「サダコ。カヤコ。そして――!!……え、ヨリコさん?エンタメ史上に残る凶悪ヒロイン、大量出現!?圧倒的な熱量で奇想が暴走する、傑作パニックサスペンス!」
と、腰巻の帯には煽り文句が印刷されていますが、
個人的に、本作のジャンルはSFだと思います。
こんなことを書くと、SF原理主義者な方との
「SFの定義とは」という古来より様々な立場が表明され
結論が出ない(というか、出るわけもない)不毛な議論に
巻き込まれてしまうかもしれないのですけれども……
それでも、ここは断言させていただきましょう、
似鳥鶏の「100億人のヨリコさん」は、SFです!
いつもの似鳥作品のように、地の文の冗長な語り口と
時折挿入されてくる(まるで論文のような)用語脚注という
スタイルは今回も健在で、その軽やかなノリの良さが
序盤のユーモア小説的雰囲気を生んでいます。
やがて、それが段々とバッドトリップのような酩酊感と、
背筋にゾッとくるようなテイストをも醸し出すというのが、
そのギャップで読者を引き付けるのに非常に効果的です。
これを計算してやっていても凄いと思うのですが、
本作については、どうやらそこまで緻密に
計算しつくして書かれているというよりも、
いわゆる「物語が降りてきた」状態で書いた、
ということであるらしいフシが見えます。
その結果が、これだけの面白い作品か……
ネタバレは一切したくないタイプの作品なので
これ以上具体的な言及は避けておきますけれど、
これは、かなりのお薦め作品だと言えます。
ただし、人によっては、ちょっとしたホラー小説を
読み終えたような読後感になるかもしれません。
なので、そういうのが苦手である人にとっては、
本作を読んでみるかそれとも止めておくかは、
熟慮の末に決めた方がいいかもしれませんね。