武蔵野市(三鷹市)吉祥寺、とある税理士事務所職員の日常 読書

「セルフ・クラフト・ワールド」第3巻

2016年12月11日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

全3巻で予定通りにシリーズの完結となった
芝村裕吏の「セルフ・クラフト・ワールド」は、
MMORGP(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)
の<セルフ・クラフト>を題材にして描かれた
近未来SF小説になります。

<セルフ・クラフト>のシステムや世界観、
内部に形成された特異な生態系等を描いた1冊目。

一転して現実世界から<セルフ・クラフト>で
得られる利権をめぐる各国のパワーゲーム等と
その結果、世界に訪れる「その時」を描いた2冊目。

それ等に続き、今回は「その時」の後の人類と
<セルフ・クラフト>がどうなっていくかが描かれます。

出だしから、かなり厳しい展開となっていますが、
しかしまあ、ここに至る状況を考えれば
当然そうもなるだろうという納得の範囲内。

問題は、そこからどのように展開させて、
どのようなラストに持っていくか、です。

この辺を詳しく書くとネタバレになるので止めますが、
なる程、ここでそう来るのかという感じで
ちょっとビターな結末はSF的にはしかし
大団円のハッピーエンドと言っていいでしょう。

どこが大団円だ、バッドエンドじゃないのか
と思う人も多そうな気がしますけれども、
個人的には、これは(条件付きの)ハッピーエンド。

100点満点中の90点くらいは付けられます。

 セルフ・クラフト
 ・ワールド 3
 (ハヤカワ文庫JA)

 (2016/9/21)
 芝村 裕吏
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カテゴリ : 読書
テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「鉢町あかねは壁がある カメラ小僧と暗室探偵」

2016年11月30日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

ちょっと前に紹介した「演奏しない軽音部と4枚のCD」
が中々面白い小説だったという記憶があるので、
書店で文庫の棚を眺めていて目に入ってきた
高木敦史のこの作品を購入してみました。

とある高校の幽霊部員の多い写真部の、
その部員の中でほぼ唯一と言っていいくらいに
熱心な活動をしている有我遼平が、
その学生生活の中で出くわす様々な事件を、
彼の幼馴染にして今は疎遠になっている
鉢町丹子が持ち前の人並み外れた洞察力で
相手が自分だと有我に気づかれないようにして
彼の手助けをして解決して行くといった内容です。

いわゆる「日常の謎」の青春ミステリーに
分類されるような作品なのですが、
本作の大きな特徴となっているのが、
出てくるキャラクターのほとんどが、
かなりクセが強いということでしょうか。

結構利己的でエゴの強さが前面に押し出されるので、
「青春」は「青春」でも爽やかさとか健やかさ
というものは正直言ってあまり感じられません。

が、考えようによってはそれが却って本作に
リアルな高校生感を出したとも言えそうです。

悪人、とまで断定していいかどうかはともかくとして
結構タチの悪いことをしている登場人物が
最後まで悪びれる振りも見せなかったりするのも、
実際はそんなもんだろうなと思わされます。

あまり露骨な描写こそ避けられていますが
わりとエグいところもあったりしますから、
そこは読み手の好みの分かれる部分でしょう。

私はそれなりに面白く読ませてもらったので、
彼の他の作品にもちょっと興味が出てきました。

 鉢町あかねは壁がある
 カメラ小僧と暗室探偵
 (角川文庫)

 (2016/6/18)
 高木 敦史
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テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「誘拐サーカス 大神兄弟探偵社」

2016年11月21日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

発売から随分時間がたっている本で恐縮ですが、
以前に紹介したシリーズの第3作目である里見蘭の
「誘拐サーカス 大神兄弟探偵社」を読みました。

冒険小説や探偵小説の復権、とまで書くと
さすがに少し言いすぎかもしれません。

が、少なくとも作者としては自分がかつて好み
親しんできたそういったジャンルの作品を、
自らの手で著して世に問うてみようという
狙いがあって書き始めた作品らしいので、
それが順調に巻を重ねてきたというのは
やはり嬉しいことなのだろうと思います。

前作「暗殺者ソラ」がスケールの大きい話だったので
それに続く第3巻については一体どうするのか、
このまま各エピソードの扱う事件やアクションの
規模ばかりが大きくなるインフレーションになるのは
いかがなものだろうかと思っていたこのシリーズ。

そういう側面が無きにしも非ずではあったものの、
むやみやたらなことにはならずに済んでいたのは
シリーズの読者としては、ほっとしたところでした。

主人公達の探偵事務所に今回依頼されたのは
アイドルオーディションに絡む女子高生誘拐事件の解決。

犯人と交渉しつつその正体や所在をさぐろうと動く中で、
今度は別の誘拐事件が絡んできて……という
どんどんと事件が輻輳して行くようなストーリーです。

例えば事件に政治を絡めるとか軍事を絡めるとか、
そういう方向でスケールアップするのではなくて
こういう、別のアプローチでトラブルに複雑さを増して
物語の重層感を出していくというのは、
少年誌のバトルマンガでよくある「強さのインフレ」的な
ことを危惧していた私にとっては、嬉しいことでした。

こういう構造、いいですね。

これまでのシリーズ3作の中では、
これが一番好きなエピソードかもしれません。

 誘拐サーカス
 大神兄弟探偵社
 (新潮文庫nex)

 (2015/12/23)
 里見 蘭
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テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「小説の神様」

2016年11月13日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

十代で学生作家としてデビューしたものの
ネットレビューで酷評され売り上げも振るわず、
創作への情熱や自分が小説家に目指した動機等を
見失いかけている主人公の男子高校生が、
担当編集者からの提案でお嬢様学校から同じクラスに
転校してきた人気作家と合作をすることになることから
始まる物語が、相沢沙呼の「小説の神様」。

高校を舞台にして男女が一緒に小説を作っていく、
というシチュエーションは小説に限らなくても
青春モノにはそんなに珍しくないネタであり、
そういう意味では本作もありふれた作品だと言えます。

しかし、この作品が他と差別化に成功している点として、
この主人公に作者である相沢沙呼本人がかなり色濃く
投影されていると思われるところが挙げられるでしょう。

相沢沙呼と言う人は自作に対する世間の評価、
ネット上の評価というものに非常に敏感で、
いわゆるエゴサーチなどもしばしばやっては
落ち込んだり悶えたりしているのですけれども、
その性格はまさしく本作の主人公そのもの。

主人公がシリーズ化を構想していた作品が
あえなく打ち切りになってしまうところも、
おそらくはちょうど本作を執筆している頃の
相沢沙呼の実体験に基づいているのでしょう。

具体的には以前紹介した「緑陽のクエスタ・リリカ」
シリーズ化を断念せざるを得なくなったそうで、
古き良きラノベファンタジー路線だった同作は、
私を含めてそういうジャンルが好きで読んだ人には
高評価を得たものの、セールスは振るわなかったよう。

そういう、作者の心中で渦巻く諸々の感情が
ダイレクトに反映されている(と思われる)本作は、
それ故にちょっと生々しさが漂っています。

要は誰が読んでも面白い明朗快活な作品ではなくて
鬱屈したものを、それもまた良しとしていける人向けだ、
と言えるのかもしれないのですけれども、
そこまで屈折しまくった作品と言うわけでも無いので
誰であっても普通に読めるとは思います。

ちなみに私は、非常に面白く読ませてもらいました。

 小説の神様
 (2016/6/21)
 相沢 沙呼
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テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「アンダーグラウンド・マーケット」

2016年11月03日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前に読んだ「オービタル・クラウド」が面白かったので
これは著者の他作品も読んで行かなければなるまいと、
「アンダーグラウンド・マーケット」を読了。

2020年の東京オリンピック誘致活動の過程において
日本政府がTPPの労働力流動化条項を呑んだことで、
日本人と同等の扱いと成功を夢見た移民が流入し、
移民人口が1,000万人を超えたという
架空の2018年東京が舞台の作品です。

作中、少なからぬ移民が安価な労働力として、
消費されることを嫌って持ち前のITスキルを活用して
同じ境遇の移民相手のビジネスを起業しています。

少ない利益の中から「公平な税制」の美辞麗句の元に
一律設定されるようになっている法人税や消費税、
そして所得税を納めることが難しいと感じた彼等は、
出身国への送金に用いていた仮想通貨を
取引の決済手段としても使い始めます。

その経済活動を日本円を媒体とした「表の経済」から
国税庁などが実体を把握することが困難である
デジタルな「地下経済」へと移行させる、というわけです。

主人公は企業に就職して表の経済の一員となることに失敗し
地下経済の中で生きる道を選んだ若きITエンジニアで、
中小企業の商売を仮想通貨であるN円を使った
無税取引に改造する仕事を請け負って報酬を得ています。

そんな彼が相棒と共に請け負ったWebサイト改造の仕事で、
決済システムを巡る問題が発生して……という展開から
物語はN円を巡っての大きなトラブルへと発展して行きます。

手に汗握る展開で、楽しく読ませてもらいました。

なお、本作の要となるN円の設定などを見ていて、
ビットコインのことを連想せずにはおれませんでした。

2014年2月のマウントゴックス社の経営破綻をきっかけに
名前を聞くことも少なくなってきていたビットコインですが、
そのまま立ち消えになってしまったかと思いきや、
ちょっと気になったのでネット等で調べてみたら、
ここのところまた脚光を浴びつつあるようです。

今回の本題では無いので触れずに済ませますが、
N円の発想のベースになったであろうビットコインと
作中のN円との違い等を比べてみるのも、
もしかしたら、ちょっと楽しいかもしれませんね。

 アンダーグラウンド
 ・マーケット
 (朝日文庫)

 (2016/7/7)
 藤井 太洋
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カテゴリ : 読書
テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「スティグマータ」

2016年10月25日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

そろそろこれも読んでおかなければなるまいと
近藤史恵の自転車ロードレース小説の
第5弾である「スティグマータ」を読了しました。

2007年発表のシリーズ第1弾の「サクリファイス」は
日本における実業団の戦いを描いており、
ツール・ド・フランスとドーピング問題を扱った「エデン」、
読み切り短編など6編を収録した「サヴァイヴ」、
大学の自転車部を描いた「キアズマ」につづく本作は
再び舞台をツール・ド・フランスに戻した一作。

5年前に発覚したドーピングスキャンダルで
過去のグラン・ツール優勝実績を全て剥奪され、
2年間の出場停止処分後も表舞台から姿を消した
過去の英雄が突然の復帰出場をするという導入から、
何故彼が今になってレースへの復帰を決めたのか、
そしてシリーズにおけるメインキャラである
白石誓は何を思い願ってツールを走っているのか、
といったようなことが本作では描かれています。

さらに、シリーズをずっと読んできた人には
それだけではない楽しみもあって、
大いに楽しく読ませてもらいました。

この作品のような一般向けのミステリー風娯楽小説、
自転車ロードレースを題材にしてしっかりとした
人間ドラマを描いてくれている作品の存在は、
私の好きな自転車ロードレースという競技を
2020年の東京オリンピックに向けてどんどん
盛り上げるのに大いに貢献してくれるでしょう。

実際、非常に面白い作品となっていますし、
読んで損をした、ということにはならないと思います。

シリーズ過去作は文庫化もされていますから、
まだ読んだことが無いという人には是非とも
ちょっと手にとって読んでみてほしいですし、
更なるシリーズ続編も、期待したいところです。

 スティグマータ
 (2016/6/22)
 近藤 史恵
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テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「トワイライト・テールズ」

2016年10月14日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

以前に紹介した山本弘の「MM9」シリーズは
全3冊でそのストーリーがひと段落となりましたが、
それとは出版社とレーベルを変えて出版された
同一世界を舞台にする短編集が本作です。

シリーズの主役であった気象庁特異生物対策部
通称「気特対」の面々が出るエピソードもあるので、
むしろスピンオフ作品だとしてもいいかもしれません。

……出版元は、違いますけれどね。

この「トワイライト・テール」に収録された4編の、
舞台となっている場所はそれぞれに
日本、アメリカ、タイ、コンゴ共和国と大きく異なり、
その時代もまちまちとなっています。

ですが、基本的なシチュエーションは
「怪獣と人間」との関係性を描く
というところに徹している印象があります。

主流からは外れているような社会的弱者や
虐げられた者のところに、人には抗えない
圧倒的暴力を携えて怪獣が現れたことで
生まれる物語は時にやるせなさや切なさを漂わせ、
読み手の心にグッとくるものとなっていました。

「MM9 -destruction-」に掲載されていた
この作品世界の年表には、まだ小説として
描かれていない事件もありますし、
これからもまだ色々と続けようと思えば
続けられる作品でもあるわけですが……

その辺り、山本弘としてはどうなのでしょう。

まあ作者の意向がどうであれ、
出版社サイドがそれに同意しなければ
新作の出版は無いわけですが。

 トワイライト・テールズ
 夏と少女と怪獣と
 (角川文庫)

 (2015/11/25)
 山本 弘
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カテゴリ : 読書
テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

「声のお仕事」

2016年10月07日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

いわゆる「お仕事小説」の1つになるのですが、
自身の著作がNHKによりアニメ化された際に
見聞した声優の事、特に駆け出しの若手についてを
青春小説としてまとめたのが川端裕人の「声のお仕事」。

養成所を出てから事務所預りの身にはなれたけれども、
年齢は20代後半になろうかというのに未だに
「これぞ」という代表作を持たない若手男性声優。

そんな結城勇樹を主人公にして、彼を取り巻く声優仲間、
事務所の社長やマネージャー、幼馴染などとの
関係を通じて何故彼がその道を選んだのか、
その辺りが語られる物語となっています。

これぞ、と選んだ道を迷いながらも進んでいく、
そんな若者の姿を描く、これは正しく青春小説。

20代後半という主人公の年齢設定を以って
「これを青春小説と呼んでもいいのか」と
思われる人もいるかもしれませんが、
内容的なことはもちろんとして、
20代後半ってまだまだ青春時代だよなと、
いい年齢になってしまった中年男性としては
思いますし、それはよしとしておきましょう。

1人の若者の抱いている自身の仕事への情熱と迷い
そして成長を描くというのが本作の基本路線で、
主人公の過去の要素の絡め方もいいですし、
その辺りは、さすが川端裕人、というところでした。

私の評価としては、彼の作品の中では
中の上くらいの位置づけになるかな
という感じですけれども、面白かったです。

ちょっとした軽めの読み物として、
夢を追う若者の物語を読んで
前向きな気分になりたい時などに、お薦め。

 声のお仕事
 (2016/2/12)
 川端 裕人
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「月世界小説」

2016年09月05日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

昨年7月に刊行された牧野修の「月世界小説」。

正直、最初に書店でこの作品の表紙を見た時には
そのポップに感じられる様子と作品タイトルから、
牧野修も明瞭簡潔な月面での戦争を題材にした
エンターテインメントを書くことがあるんだと思いました。

ですが、これ、そんな程度のものではありませんでした。

とりあえず、裏表紙に書かれている
あらずじの一部をここに書いてみましょう。

「友人とゲイパレードを見に来ていた青年、菱屋修介は、晴天の空にアポカリプティック・サウンドが鳴り響くのを聞き、天使が舞い降りるのを見た。次の瞬間、世界は終わりを告げ、菱屋は惨劇のただなかに投げ出された。そして彼が逃げ込んだ先は、自分の妄想世界である月世界だった」


まさか、いきなり冒頭からヨハネの黙示録が来るとは!

そこから先は牧野修お得意のネタである
「言語」を巡る一大絵巻が繰り広げられます。

脳髄から頭が揺さぶられるてくるような刺激に満ち、
話はシリアスでハードに繰り広げられるのに
あちこち挿入されてくる小ネタの数々、
これは、まさしく牧野修のSF作品です。

「シュレディンガーの猫」の話では無いですが、
私達が認識することによって初めて
その対象となったものの状態が確定される、
世界というものがそういうものであるのであれば、
我々が事物や現象を言語を以って表現することで
世界そのものが規定されるという考えはどうなのか。

デカルトの「我思う故に我あり」ではないですが、
「我語ることにより世界あり」ということも
あるいはあってもいいのではないか……。

黙示録の開始を告げに来た天使=神に対し
主人公達が「言葉」「物語」「妄想を言語化し語ること」で
対抗するこの物語がここまでクラクラくる内容だとは
思わなかっただけに予想外の大いなる収穫となりました。

これは、多くの人のこの最高の酩酊感と
心地良い興奮とを味わってもらいたい作品です。

ちなみに、物語の最終段階に突入する辺りに
「物語こそが防衛と攻撃の要なのだ。
語られることで人類は守られ、語ることで」
「抵抗ができる」とありました。

このフレーズに、私はグッと来ました。

余韻溢れるラストもいいのですが、
読んでいて一番響いたのは、ここです。

冒頭からめまぐるしく展開しながら突っ走りまくり、
しかもスピードは緩まるどころか
どんどん加速しながら最後まで至るという、
アクセル踏みっぱなしの非常に濃密な物語です。

菱屋=ヒッシャー=筆者であることとか、
本作が日本語で書かれていることの意味とか、
読了後に色々と考える出して更に
面白くなってくるポイントがあって、
一粒で何度美味しいのか分かりません。

読み手を選ぶようなところもある作品ですが、
個人的には、今年読んだベスト3に入る傑作。

 月世界小説
 (2015/7/8)
 牧野 修
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「天空の約束」

2016年08月27日  
吉祥寺(武蔵野市、三鷹市)の税理士事務所、
宮内会計事務所に勤める税理士の卵です。

このブログを始める前に読んだ作品なので
残念ながらここで紹介することはしていないのが
さすがにちょっと申し訳なくもあるのですが、
2012年に刊行された川端裕人の「雲の王」と
同じ世界を舞台に、そこに登場した一族に係る
別のストーリーを描いている「天空の約束」を読みました。

作者自身のブログで書かれていた宣伝文句が
作品の内容を端的に書いているかなと思うので、
それを転記させてもらうことにします。

「身の回りの空間の気候、すなわちの研究者である八雲助壱。元教え子と共に「雲の倶楽部」なる会員制のバーを訪れた彼は、不思議な小瓶を預かることに──。戦時にも遡る、空の一族の壮大な物語」


目次を見てみると本作は全9章立てになっており、
それもあって、読み始めた当初は一族を主人公にして
様々なエピソードを並べていくといったスタイルの
短編集みたいなものかなと思っていました。

ですが、ページをめくって1つ2つと
そこに紡がれているものを読み進めて行くうちに、
これはつまりエピソードが積み重ねられて行って
全体として1つの大きな物語を形成するタイプの
物語構造になっていると気が付きました。

ちなみに、前述の通り全部で9つある章の内
この作品の中核と言えるものになるのは、
6つ目のエピソードである第5章の
「分教場の子ら、空を奏でる」です。

これだけで86ページ。

本作は全266ページの作品なので、
およそ1/3を占めている計算になります。

ボリュームの点だけではなく内容的にも
この章が全体の印象、作品の傾向を決定付けている
ということからも、この章こそが「天空の約束」である、
ということも言えなくもないと感じました。

それだけ強烈な読後感のあるエピソードなのですが、
これを読む際に私の脳裏に浮かんで離れなかったのが
恩田陸の「光の帝国 -常野物語」でした。

パクリだとか二番煎じになっているとかは言いませんが、
わりと似たような題材になっているように思えます。

その分だけ、本作を読んで受けるインパクトが
薄れてしまったというのは否定でない事実であり、
それはちょっとばかり残念なことかもしれません。

本作が単体で楽しめないとは言いませんが、
「光の帝国」についてはともかくとしても
できれば事前に「雲の王」については
読んでおいた方がいいような気がします。

2015年には集英社文庫になっていますし。

 天空の約束
 (2015/9/25)
 川端 裕人
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カテゴリ : 読書
テーマ : 読んだ本の感想等 ジャンル : 小説・文学

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